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- 【連載】パリの賃貸不動産事情 第9回
パリのリノベーションの現状 リノベが行われる予定の築300年の物件
ボンジュール、坂田夏水です。フランス・パリ在住3年目に入り、こちらの建設業界や工事事業者の実情が少しずつわかってきました。
▲リノベが行われる予定の築300年の物件
工程どおりに進まない現場
パリのリノベーション事情を一言でいうなら、「工事は計画どおりに進まないのが当たり前」。もし工程表のとおりに完工すると「手抜き工事では?」と疑われるほどまれなことなのです。そして、工期が延びると職人の工数も増えるため、工事請負契約の金額もあってないようなもの。工事内容はさまざまな理由で追加され、金額が増えます。工程どおりに引き渡し、という日本で当たり前の習慣はすごいことだと思います。
「なぜ工事が遅れるのか」という問いに対して答えは明快です。工程どおりに進まなくても残業はしませんし、バカンスに入ると誰も働かなくなります。そして、古い建物ゆえに発生する解体後の想定外の問題や、職人不足のうえにフランス語の通じない移民の職人たち。現場でトラブルが発生したら工事は止まるし、放置されることも珍しくありません。現場監督も「仕方ないよね」という感じの対応で、工程はあっても、そのときの建物と職人の運任せといっても過言ではありません。
施主は工期や予算はもちろんのこと、心の余裕を持っていないと進行できないのがパリのリノベの現状です。
省エネ物件への転換が急務
しかし、断熱効率が悪い住宅をなくすため、住宅のエネルギー性能診断(DPE)でEとFがついた住宅は賃貸に出せなくなり、パリのリノベ状況は切迫しています。
E以下の住宅は全体の17%に相当する520万戸だそうです。知人によれば、EとFの診断が出ている物件は不動産会社が取り扱ってくれなくなるために、工事の予約をしても1年待ちとのこと。
リノベ工事の内容としては、キッチンや風呂などの設備機器を入れ替えることはもちろん、窓をペアサッシに取り換え、外壁や屋根、床下に厚い断熱材を入れます。断熱材を入れるということは天井や床、壁を仕上げ直す必要がありますから、内装工事事業者も大忙しです。
▲道路から荷揚げ用クレーンで建材を搬入
大きな断熱材やプラスターボードは、建物の階段が狭く、小さなエレベーターには入らないため、工事事業者は荷揚げ専用クレーンを使います。
わが家は引っ越しの際には工事が完了していました。屋根と壁に厚い断熱材が入っているので、夏は涼しく冬は暖かい。暖房は電気式ですが、家中の暖房をつけると暑いくらいです。
日本文化を取り入れたリノベ
パリ6区で私が運営する日本の伝統建材の畳や和紙を販売する店「BOLANDO(ボランドウ)」には、自宅のリノベを予定しているお客さんが来店します。話を聞いてみると、日本の文化をよく知っていて、禅や茶道などを生活に取り入れている人が多いようです。
建材の受注・納品にあたっては、物件の現地確認に行きます。時にはパリ中心部のシテ島にある築300年以上の建築物の一部屋だったり、有名ブランドを所有する著名人の新居だったり、普段はお目にかかれない物件に出合うことがあります。
あるときは、ルーブル美術館横のチュイルリー庭園沿いにある高級物件に障子がある部屋を持ち「障子の和紙を張り替えたくて、やっとあなたの店を見つけたわ」といってくれるマダムもいました。彼女は襖ふすま用の大きな手すき和紙を選び、それを日本から取り寄せ、無事に高級物件の障子が張り替えられました。
夏水組(東京都武蔵野市)
坂田夏水 代表
【プロフィール】1980年生まれ。2004年武蔵野美術大学卒業。アトリエ系設計事務所、工務店、不動産会社勤務を経て、夏水組設立。空間デザインのほか、商品企画のコンサルティングやプロダクトデザイン、インテリアショップ「Decor Interior Tokyo(デコールインテリアトーキョー)」、インターネットショップ「MATERIAL(マテリアル)」の運営などを手がける。22 年よりパリで日本の建材店「BOLANDO(ボランドウ)」の運営を開始、現在パリ在住。
(2025年1月号掲載)
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