Regeneration ~建物再生物語~:眠っていたしょうゆ蔵を再生

賃貸経営リフォーム・リノベーション

眠っていた大正期のしょうゆ蔵を再生
ギャラリー兼カフェに人が集う

蔵ギャラリー&カフェ

 瀬戸内海に浮かぶ小豆島。400年の伝統を誇るしょうゆの産地であり、現在でも島内で15ほどの蔵がしょうゆづくりをしている。その中でも最も古いしょうゆ屋である1844年創業のヤマトイチ醤油(香川県土庄町)が、かつて醸造所だった築100年以上の歴史あるしょうゆ蔵をリノベーションし、2014年に「蔵ギャラリー&カフェ」としてオープンした。

ヤマトイチ醤油(香川県土庄町)
大森勝輔代表(77)

 「結婚後は岡山県備前市にある営業所を切り盛りしていたのですが、母が高齢になったこともあり、11年に夫婦で島へ戻ってきました」と語るのは、ヤマトイチ醤油6代目で現代表の大森勝輔氏だ。
 蔵があるのは、同島の北部に位置する大部地区。良質な石の産地として栄えた集落がある。

 「いざ島に帰ってきてみると、商店はなくなり、空き家が増えて、周りがどんどん寂しくなっていると感じました。公民館などではなく、近所の人たちが気軽に集える場所をつくりたいと思ったのです」(大森代表)

▲玄関口では赤いのれんと多数のしょうゆ樽だるが目を引く

 再生したしょうゆ蔵は、大正時代に建てられた木造の建物。こうじをつくるこうじ庫と仕込みや作業を行う槽場ふなば・操作場という二つの建物から成り、国の登録有形文化財にも登録されている。
 1976年に台風による土砂災害に遭遇。建物に大きな被害はなかったものの、蔵の中に土砂が流れ込み、木おけのもろみがほぼ壊滅してしまったという。

 「私たちが島へ戻った頃には、この蔵は使われておらず、荷物置き場になっていたのです。もったいないと思い、総工費750万円ほどかけて、古い建物を扱うのが得意な近所の大工に工事を依頼しました」と大森代表は当時を振り返る。

▲焼き杉板は張り替えたものの、往時の面影が色濃い外観

 大きな災害にも負けずに残った蔵が物語るのは、立地の安全性と太い柱や二重梁を備えた造りの頑丈さ。そのため構造にはほぼ手を加えず、雨漏りのあった屋根を改修したほか、カフェに必要な調理場や個室にするための建具、2階へと上がる階段などを新設した。漆喰壁を採用し、屋内外共に焼き杉板を張り、レトロな雰囲気を生かしている。使われなくなった木おけや樽たるを、テーブルや家具として再利用している点もしょうゆ蔵ならではの演出だろう。

▲木おけの底を再利用した丸テーブルは、近所の人にも好評

 店内では、島内在住の作家による絵手紙やアクセサリーをはじめ、親交のある備前焼作家の作品も展示・販売。音楽ライブや落語会などのイベントも不定期に開催されている。20人ほど座れる個室は、持ち込み自由で、貸し切り利用も可能だ。

 

「地元消防団の集まりや同窓会などに使われています。近所の空き家再生にも取り組んでいるので、移住者が増えて、地域がまた盛り上がっていけばうれしいです」(大森代表)

(2025年 3月号掲載)

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