Regeneration ~建物再生物語~:わかめ加工場が大人の宿に

賃貸経営リフォーム・リノベーション

わかめ加工場をリノベーション
大人の一人旅を満たす海辺の宿が誕生

NOMAyado(ノマヤド)

 特産の「鳴門わかめ」で知られる徳島県鳴門市。大毛島の小さな港町に、小鳴門海峡に面した2部屋だけの宿がある。暮らすように泊まることができる「NOMAyado(ノマヤド)」だ。

 わかめの加工場として、10年ほど前に建てられた鉄骨造の倉庫を借り受け、リノベーション。2023年4月にギャラリーと車2台分のRVパークを併設した簡易宿所をオープンした。

能勢信之オーナー(63)(徳島県鳴門市)

 「オーシャンビューと聞くとリゾートをイメージしがちですが、造船所や渡し船などここにあるのは“暮らしの海”。ローカルな暮らしに触れることで、街から来たお客さまに何かしらの気付きが生まれる場所になったらいいなという思いで宿を営んでいます」と話す能勢信之オーナー(徳島県鳴門市)。

▲小鳴門橋を背に港町の風景に溶け込むNOMAyadoの全貌

 兵庫県川西市在住の映像クリエーターで、趣味のサーフィンで訪れていた徳島との2拠点生活を始めたのは17年のこと。親の介護と仕事を両立する日々にニット作家である妻のマユミ氏ともども精神的に追い詰められていた。そんなつらい時期を救ったのが、シェルター的存在の徳島で過ごすひとときだった。

 介護がひと段落した22年初め、自身の暮らしを見直すと同時に徳島への恩返しの気持ちも込めて、宿の立ち上げを決意。新型コロナウイルスの影響で映像の仕事が激減し、自分と向き合った時間が背中を押した。

 

▲プライベートに配慮し、中央階段の左右に1部屋ずつ客室を配置。色分けした壁が映える

 時には自分で足を運び、物件探しには半年ほど費やした。内見は3軒だけで、運よく同物件を契約。倉庫とはいえ水回りが整備されており、何もないスケルトン状態だった。浄化槽が5人槽だったため、宿主を含めるとおのずと客室は2人または1人客向けの2部屋に決まった。

 

 徳島の建築士に要望を伝えて出てきた改修工事の最初の見積もりは、予算を上回る2000万円に上った。そこで倉庫全体に断熱材や壁、天井を施工して断熱・機密性能を求めることを断念。発想を転換し、お金をかけるべき部分と抑える部分を明確にし、プランを練り直した。

 約8畳ある二つの客室は快適な空間にすべく資金を投入。共有スペースにおいては床をフローリングにする以外は、わかめの加工場であった面影が残る倉庫らしさをあえて残した。室内に自然光を取り入れ、客室から海が望めるように風景を切り取る、屋根勾配に沿った大きな三角窓だけは譲らなかった。国の事業再構築補助金も利用し、改修費用は設備を含め最終800万円ほどに収まったという。

 

 「ギャラリーで展示やイベントを企画すると、徳島の近場からでも泊まりに来てくれるのです。この宿を目指して来てくれる人との出会いを大切にしながら、リピーターも増やしていきたいですね」(能勢オーナー)

(2025年 5月号掲載)

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