ベテラン家主の実例見学会:DIYリノベで空き倉庫を再生

賃貸経営リフォーム・リノベーション

一棟貸しから4区画貸しで収益性を上げる

「オーナー井戸端ミーティング(OIM)」を主宰する吉原勝己オーナー(福岡市)の声かけで九州や関西から集まった家主14人が2月25日、福岡市内の空き倉庫のDIYによる再生事例を見学した。参加者は、再生を手がけた家主の考えとそれを貫く意志に共感していた。

借主同士で創造できる場へ

 当日訪れたのは、同市の中心部から少し離れた、住宅や事業所が混在するエリアに立つ「山善倉庫」。近くに単身者向けマンションを持つ山崎敬太オーナー(同)が経営するヤマゼン(同)が所有する築44年の倉庫だ。

 敷地面積は約330㎡。建築面積は約230㎡で、鉄骨造2階建て、延べ床面積は約300㎡。12台分の駐車場も併設する。

 

 一棟貸しをしていたが、2023年1月に入居していた食品卸売会社が退去。原状回復も望めない事態となり、直後から山崎オーナーは将来の運営について再考し始めた。そして新しいことに挑戦しようと再生を決意。分割することで賃貸経営の効率化ができないかと考え、従来と同様の一棟貸しではなく、4区画に分けて貸し出すことにした。

 コンセプトは「倉庫から創庫へ」。単なる倉庫の機能にとどまらず、ものが作られ、新しいアイデアが生まれることをイメージした。また建物内で入居者同士のコミュニティーが生まれ、その中で新たなものが創造されることも期待している。

 設計は地元の建築家・岡村修氏に依頼した。同氏と二人三脚でのDIYリノベーションが同年3月末からスタート。地元の家主仲間も定期的に加わって、約1年半をかけてリノベを行った。給水管工事と電気工事はプロの事業者に依頼し、それ以外は自分たちで手がけたという。食品卸売会社が倉庫内に増床した部分を解体し、その廃材を再利用して階段や壁を作った。入口から入ってすぐの空間には、入居者同士がコミュニケーションを取ることができるエントランスホールを設けた。

▲参加者たち。右から1番目が今回のイベントを企画した𠮷原オーナー

 リノベ完了後の24年10月から25年3月までは、試用期間として1日貸しや時間貸しのレンタルスペースとして運用。平日はヨガスタジオ、撮影会などで時間貸しの利用が多く、週末はポップアップショップ、ギャラリーなど主に1日貸しで使われた。週末は同期間中に延べ30日以上稼働した。

▲1階のロフト付き区画について説明する山崎オーナー(左から1番目)とそれを聞く参加者たち

賃料収入3割増を目指す

 同物件は25年4月から本格的に賃貸募集を開始。倉庫のほか、事務所やアトリエとして利用してもらいたい考えだ。山崎オーナーは「賃料は倉庫の相場ではなく、周辺の事務所の相場に合わせました」と語る。食品卸売会社に一棟貸ししていた時の賃料は月額約38万円だったが、まずは全区画合わせて50万円以上の賃料収入を目指す。

 また募集に際しては、仲介業者や入居者に山善倉庫の特徴を理解してもらうために「山善倉庫の七カ条」を文書化した。


 「倉庫から創庫へ」のコンセプトの下、入居者同士の交流で新しいものを生み出すことに納得してもらえる人に借りてほしい旨や、廃材を再利用したことに理解を求める内容になっている。また施設の構造上、防音機能は高くないが、その一方で音を出すことを厳しく禁止することもないというユニークな方針も示されている。それに納得、共感してもらうことを条件に募集する。山崎オーナーは「今回の再生プロジェクトは企画から施工、運営、管理までハードとソフト両面のデザインをほとんど自分で手がけました。契約書や重要事項説明書などの書類も山善倉庫オリジナルです」と語る。

▲試用期間中は音楽イベントも開催された


 参加した家主からは「自分の思いを誰が見てもわかりやすく伝えるために文書化することは参考になります。契約書や重説書も見てみたいです」といった声が聞かれた。

OIMリニューアルへ
 今回の催しは、今後予定されるOIMのリニューアルに伴い行われたものだ。
 OIMは2008年に発足。以来17年がたつが、𠮷原オーナーの「若い世代が引っ張っていってほしい」という思いから、𠮷原オーナーが座長として関わりながらも若手家主が運営を行う「OIM.Re3(りさん)」として25年中に生まれ変わる予定だ。
 それに伴って、正式な発足までの間に、OIMのメンバーのうちベテラン家主の不動産経営を学び直すことを目的に開催された。
 25年中は、同様のイベントが複数回予定されている。

(2025年 6月号掲載)

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