Regeneration ~建物再生物語~:歴史と文化を伝える私設図書館

賃貸経営リフォーム・リノベーション

金物店の倉庫をリノベした図書館
地域の歴史と文化を伝える交流の場

さいかちどブンコ

 埼玉県草加市にある「さいかちどブンコ」は、つなぐば家守舎(埼玉県草加市)が運営する小さな私設図書館だ。

 建物は、20年ほど前まで金物店に倉庫として貸し出されており、退去後はオーナー家族が家の蔵のように使っていた。

 つなぐば家守舎の小嶋直代表は2018年から、さいかちどブンコの近くで「シェアアトリエつなぐば」を運営している。

(左)中村美雪オーナー(埼玉県草加市)
(右)つなぐば家守舎(同)小嶋直代表(44)

 倉庫に図書館を作るアイデアが出たのは22年。大学受験に向けた課題作成のため、同アトリエに高校生が訪ねてきたことがきっかけだ。やりとりをする中で、新型コロナウイルスの流行で学生が勉強できる場所が減っていることを知った。

 ちょうど同アトリエの始動から4年がたち、オフィスとして使用している利用者にも本が必要な場面が増えていた。また駅前の書店も再開発で閉店したタイミングだった。そのうえ、草加市には図書館が1館しかない。

 建物を所有する中村美雪オーナー(同)は「小嶋さんたちに、この倉庫を誰もが使える本のある場所にしたいと提案されました。私も本が好きですから、すぐに賛成したのです」と当時を振り返る。

吹き抜けを生かした空間になった

 リノベーションでは倉庫時代の吹き抜けがある間取りを生かし、保管されていた古材も活用して内装を施した。地元の名産品「草加せんべい」の生産に使う網を2階部分の手すりに使い、まちの過去と現在が融合する空間を目指している。

 

 図書館の運営には、静岡県焼津市のさんかく図書館を参考に「一箱本棚オーナー制度」を導入。1箱につき1カ月2200円、年間契約だと2万円で自分の好きな本を置くことができる。入れ替わりはあるが、常時30~40人ほどが参加している。

一箱本棚として30~40個ほどの木の箱が並ぶ

 また利用者の中から希望者が「としょ係」として受付を担当し、その間は自分の作品や商品などを販売できるようにした。としょ係がいない日は休館になる。今では週3日のとしょ係を引き受ける利用者がおり、月20日ほど開館している。

 SNSでも開館日を予告するが、入り口に張り出した開館カレンダーを書き写していく高齢者がいるという。一箱本棚オーナーではないが本を寄贈しに来る人や、木の椅子が寒いだろうと手編みの敷物を持ってくる人もいる。

 

 「元々運営していたアトリエだけでは出会えなかった地域の人にも、図書館をきっかけに私たちの活動が受け入れられています」(小嶋代表)

 「ブンカにつなげる」というコンセプトの下、草加市出身の落語家による寄席や古本市も開かれた。今後は読書会の頻度を上げるなどして、より本に焦点をあてたイベントを増やしていく予定だ。

地域のイベントも行われる場となった(撮影:池田英樹)


(2025年 6月号掲載)

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