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- 【連載】次世代不動産オーナー井戸端セミナー第2弾:第3講
次世代に向けた不動産経営の取り組み
不動産業界において大きな変化が起こりつつある中、「不動産オーナー井戸端ミーティング」を主宰する吉原勝己オーナー(福岡市)が中心となり、「共感不動産」という新たな経営コンセプトを通して、貸し手と借り手、そして地域にとって「三方よし」となる、持続的でブランディングされた不動産経営を目指す勉強会を有志で開催。その第2弾として開催中の連続セミナーの講演内容を5回にわたりレポートする。
第3構「センスと限られた予算でのリノベーション」から「地域に新しいリノベーション市場を創出する社会的意義と効果」について考える
市民自らDIYで街を再生
福岡県大牟田市は、かつて炭鉱の街として栄え、最盛期は約24万人が暮らしていましたが、現在は人口12万人ほどに半減。しかし、その変化を現実として受け入れ、この20年間で街は大きく変容しました。シャッター商店街が復活したり、「大牟田わかもの会議」が立ち上がったり、市民一人一人が大牟田市の問題を自分ごととして捉え、さまざまな活動を行った結果、街は息を吹き返しています。
「ハンドメイドアーバニズム」という言葉があります。これは人口減少と衰退が進む地方都市において、大規模投資による再開発が難しい中、市民自らDIYを活用して街の再生に取り組む街づくりの概念です。
私も最初は1人でリノベーションを手がけていましたが、それをきっかけに周囲の建物の若いオーナーたちと出会い、共に長屋のDIYリノベなどに取り組んでいきました。
そうした中、商店街にある老舗のオーナーがDIYリノベに何度も参加していました。少し不思議に思って聞くと、それまで活用が難しかった商店街の中心部にある空きビルを取得したので、うまく運営してくれる人を探してのことでした。これは素晴らしい社会的投資だと思います。
その後この空きビルの1階にはイタリアンレストランが入ることになりました。入居を決めたのは若いシェフです。福岡市の街中で店を出すか地元の大牟田市で出すか迷っていたところ、ストリートデザインの会議で地元の人たちが熱心に話し合うのを見て、大牟田市に決めたようです。
そこから、完成イメージを描いたスケッチを基に図面を起こしてもらい、商店街の仲間や大学生、商工会議所の人々が協力して、解体や内装工事などをDIYで進めていきました。
▲2015年に描いた大牟田市の再生プロジェクトのスケッチ。現在ではそのほとんどが実現されている
街は連鎖反応で活性化
この店を含め、市民DIYプロジェクトで2件の店がつくられました。この過程を見て、新たに商売を始めたいという人たちが自主的に集まり、結果的にすべての空き物件が埋まったのです。最初のアクティベーションがうまくいけば、その後は連鎖反応のように街が活性化していくことを強く実感しました。
当初はすべての空き物件を埋めるためには力業でイベントを繰り返さなければならないと考えていましたが、実際には最初の成功例を示すことで、自然と街の変化が進んでいくことを学びました。街を変えるためには成功事例を見せることが重要であり、それがほかの人々を引き寄せ、街全体の活性化へとつながっていくのです。
限られた予算でも可能
アドイシグロ
代表取締役社長 石黒ちとせ氏
(長野市)
長野市生まれ。若い頃は塾講師などで生計を立てつつ中国大陸を放浪して過ごす。2006年から老舗看板屋アドイシグロの4代目社長。13年、「長野ビンテージビルプロジェクト@光ハイツ」をスペースRデザインの指導の下、アドイシグロの新事業(ソーシャルビジネス)としてスタート。23年看板屋の未来の仕事を考えるラボとして、アートと社会活動の発信拠点「ラボラトリオTuLuuga(ツルーガ)」をオープン。
私は看板製作の会社を経営しており、祖父が創業してから96年になります。「光ハイツ」は会社の敷地内にある集合住宅で、1978年築の鉄筋コンクリート造6階建てです。1階が看板用のシートを印刷する出力センターとなっており、2階から6階までが住居で20戸あります。老朽化に伴いリフォームを検討しましたが、見積額は約500万円、しかも家賃は上がらないどころか下がる可能性があると言われました。
そうした中、入居を希望する人と一緒に部屋をつくっていく手法を知り、この方法でプロジェクトを進めることにしました。 最初は私自身も入居者もリノベに関する知識や資金がなく、どう進めていいのかわからなかったので、まずは1室をリノベするアイデアコンペをすることからスタート。その後、需要を確かめるための実験的なリノベや看板屋らしいとがったデザインのリノベなど、少しずつ取り組みました。リノベを進める過程で、賃料を上げても空室が減少し始め、物件全体がより良い状態になっていきました。
新しい賃貸市場を切り拓く
▲ルーブル美術館をモチーフにした部屋
リノベは予算を制限して行いましたが、どれだけコストを抑えてどのような部屋をつくることができるのかを探求。その結果、制約の中で生まれる創造性や、それに伴うプロセスの重要性が再確認できました。リノベは社員たちが取り組みましたが、アイデアは面白いが不評だったものや、デザインは優れているのに入居者がなかなか決まらないといった課題も経験しました。
一方で看板屋としてのベースがあるからこそ、非常にユニークな発想も生まれ、独自の進化を遂げています。一見すると信じられないようなデザインも、賃貸市場における新たな可能性を探る面白さに満ちており、実際にほかの部屋よりも家賃を高めに設定しても、入居者には喜んで受け入れられている部屋もあります。
賃貸物件は一部屋ごとに異なるコンセプトでマーケティングすることが可能であり、これこそ賃貸市場におけるリノベの面白さの一つだとも思います。見込み生産への挑戦であり、とがったデザインを求める顧客にアプローチする新しいマーチャンダイジングでもあります。
看板屋がリノベに取り組むことで、発想力とアート感覚が光るデザインが次々に生み出されていることは、賃貸市場に新たな楽しさと価値をもたらしているといえます。
建築/デザイン
murata 代表 村田 仁氏
(福岡県大牟田市)
福岡県の元炭鉱の街・大牟田出身。父と同じ左官業から仕事を始める。大工業の経験も積み3年ほど東京のイベント会社で造作工事を習得。その後、大牟田市の飲食街で築古物件の店舗への改装を多数手がける。近年では、熊本県荒尾市や同県長州町でDIYリノベの手法を取り入れながら、地域再生にもつながる築古物件の改修を行う。
(2024年6月号掲載)
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