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躯体を生かしつつ時代に合わせアップデート
SRC造やRC造の建て替えには解体費用の負担が大きくのしかかる。建て替えずに物件を再生したオーナーが採用した手法について紹介する。
既存不適格でも規模はそのまま
新築より低コストで蘇らせる
青木茂建築工房(東京都港区)青木茂会長
住本雅昭オーナー(東京都千代田区)
東京メトロ南北線本駒込駅から徒歩11分、都立駒込病院のすぐ目の前に立つ「インスタイルレジデンス本駒込」。住本雅昭オーナー(東京都千代田区)にとって、祖父が1976年に建てたこのSRC造マンションをどうするかは、10年来の悩みだった。
「旧耐震基準ですと、やはり地震が心配です。そこで以前は建て替えを念頭に置いていました」と話す住本オーナー。だが、建て替えた場合、既存不適格となり、3階建てあるいは4階建てになることがわかっていた。現状、7階建てのところがおよそ半分になってしまう。つまり、建て替えは大幅に収益を下げる選択となる。
「建て替えが駄目なら、いっそ売却も視野に入れよう」と考え始めていた住本オーナーが選んだのが青木茂建築工房(東京都港区)の青木茂会長が独自に行う「リファイニング建築」だ。
リファイニング建築では、躯体の解体はせず、そのまま残しながら補強・補修をすることで新耐震基準まで性能を上げていく。さらに、躯体以外はすべて解体し、間取りやデザイン・設備のアップデートを行い、新築と同等レベルまで再生することができる。
「実は、10年前からこの工法については知っており、問い合わせたこともありました」(住本オーナー)。当時は見積もりを見て、その建築費が事業性に見合わないと思ったため、一度は断念した。
だが、新型コロナウイルスの流行以降、建築費や人件費などが高騰した。「物件を全解体して、木造の物件を複数建てるプランと改めて比較してみたところ、遜色ないことがわかりました」と話す住本オーナーは、リファイニング建築で物件を生まれ変わらせることを決めた。
▲新設した耐震壁の工事
筋交い不使用で強度アップ景観と耐震性を両立
改めて、コンクリート中性化の度合いなど、劣化に影響する事象を第三者に調査してもらったところ、躯体に使われていたコンクリートの耐用年数評価は、今後88年は持つという結果だった。
一方で、耐震に関しては物件の長手方向に耐震性が不足していた。そこで、既存の躯体に新設でコンクリートの耐震壁を設けた。また梁も炭素繊維シートを使い強度を上げた。
一般的に、旧耐震基準の物件の耐震性を上げようとすると、筋交いを入れる必要があるが、それでは景観が大きく損なわれてしまう。だが、リファイニング建築は耐震性を確保できるうえ、建物の美観を損なうことがない。物件価値の保持にもつながる。
時代のニーズに合わせる ターゲットはDINKS
同物件は、もともとワンフロアに2LDKが2戸、2DKが4戸の間取りが基準だった。マーケティングを行い、その結果を踏まえ、2LDKの2戸を2LDK1戸と1LDK2戸に変えた。竣工当時とは違い、人々のライフスタイルが変わったことを鑑み、メインターゲットをDINKSに据えたためだ。
1戸は35~55㎡。賃料は13万~21万円に設定した。この賃料は、周辺の新築の家賃の95%程度を確保できているという。
また、床を二重床にして遮音性を高めた。窓のサッシを入れ替えたことで、断熱性も新築と同等だ。耐用年数を考えると、今後2代、3代と活用できる物件にし、資産価値をキープする必要がある。そのために、設備のアップデートが重要だった。
二酸化炭素量を削減持続可能な物件づくり
リファイニング建築には特筆すべき点がもう一つある。それが、二酸化炭素(CO2)の排出を大幅に削減することができるという点だ。新築工事と比べて、72%削減が可能だという。
「今の時代、環境に配慮した工法での再生は意味のあることだと思います」と話す住本オーナー。新築に比べてCO2排出量が少ないが、同等レベルまで再生できることは、持続可能な賃貸経営として未来につながる取り組みといえるだろう。
▲(左・After)内装だけでなく断熱性もアップデート
▲(右・Before)和室のある古いタイプの間取り
築古物件を救う大きな特徴 既存不適格物件の建物規模を維持
既存不適格物件とは、竣工後の法令改正や都市計画変更などにより、現行法に対して不適格な部分が生じた建築物のこと。特に築古物件ではこの既存不適格物件のリスクがある。インスタイルレジデンス本駒込は、竣工後に定められた日影規制の影響で、建て替える場合は3~4階の高さまでしか建築することができなくなっていた。リファイニング建築は、躯体をそのまま生かすことで建物の規模を維持できる。
(2024年7月号掲載)
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