家主が買い取った電力を入居者に個別売電し電気代削減
2024年4月から省エネルギー性能表示制度が始まる。国が環境配慮型住宅への供給にかじを切る中、賃貸住宅についても例外ではない。省エネ対応にしようとするとコストの負担増が懸念されるが、収益性の向上も含めて省エネ賃貸住宅を実現するシステムが登場した。家主にも入居者にもメリットがある電力供給システムを紹介する。
賃貸不動産における太陽光発電の新しいサービスを提供するおおみ(東京都新宿区)は、太陽光発電を活用した新しい電力供給システム「SORAZZO(ソラッツォ)」を開発した。家主が建物全体として電線からの電力購入を電力会社と契約。屋根上に設置した太陽光発電でつくった電気と合わせて各住戸に供給するシステムだ。太陽光の余剰分は電力会社に売電することで家主のさらなる収入となる。
※おおみ提供資料を基に地主と家主が作成
従来、賃貸不動産の太陽光発電は、共用部で僅かに消費され、多くが電線への売電ありきであった。これを入居者へ供給する場合、一般的な設計で行うと、太陽光パネルで発電した電気を家庭で使える電気に変換するパワーコンディショナーを戸数分、導入する必要があり、戸数が多い場合、コストがかさむ。
一方、SORAZZOはパワーコンディショナー1基でも、つまり太陽光1系統でも最大で全室に対応可能。さらに、パワーコンディショナー分の太陽光発電を最優先で利用できる居室「特定居室」の設定が可能だ。特定居室は、電気代削減効果などがほかの居室よりも大きくなる。決まりにくい住戸を特定居室にして入居促進もできる。電気料金も家主が部屋ごとに設定でき、電気料金による差別化で空室対策となる。
入居者には非常時の電気利用などのメリットがあるが、最も大きいのは電気代の削減。現在3棟の賃貸住宅にSORAZZOを導入済みだが、さいたま市に22年9月に新築した単身者向け賃貸住宅では、23年1月から5月の期間で入居者の電気料金を東京電力で契約するよりも12%ほど安くできた。家主側の粗利も10万円を超えた。同物件は、太陽光発電設備の投資費用が約540万円なので、利回りも高い。
既存の賃貸住宅に太陽光発電設備が設置されているケースでも収益向上を図ることができる。FIT(再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度)の固定買い取り期間が満了すると、売電収入は最大で80%程度減少するとされている。SORAZZOは太陽光発電設備を設置している中古物件と新築物件で導入したときに、メリットを享受しやすい。
ただ、家主側で個別売電をするとなると、請求作業の煩雑さが課題になるだろう。そこで、同社では各住戸がどのくらいの電力を使っているのかをシステムで管理し、家主とウェブ上で情報を共有できるようにしている。電気代の請求は各戸で異なるが、請求書の発行はクレジットカード決済や家賃口座からの引き落とし、管理会社による請求書発行などの方法がある。
「家主側の売電メリットだけではなく、再生エネルギーが利用できて電気代が安い賃貸物件という選択肢の提供が、集客力強化にもつながると考えています」と岡野英司代表取締役CTOは語る。
(2024年1月号掲載)
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