【連載】資産価値を維持する 高性能賃貸住宅:5月号

賃貸経営住宅設備・建材

VOL.7 外壁材と屋根材の選び方で維持コストが変わる

「資産価値を維持する高性能住宅」とはどのようなものかについて、高気密・高断熱住宅を手がける建築会社を家主に紹介する住まいるサポート(神奈川県鎌倉市)の高橋彰代表取締役がわかりやすく解説する。

 賃貸住宅を計画する際には、新築にかかる建築費と、賃料収入に基づく利回りを想定して計画を進めることが多いと思います。維持・修繕にかかるコストは事業計画に入っているはずですが、初期コストと維持コストの比較検討はあまり行われていないのではないでしょうか。

 実は、中長期的に見ると外壁材と屋根材により、メンテナンスの必要頻度は異なり、維持コストが違ってくるのです。

屋根はSGLがおすすめ

 まず屋根材で最も一般的な屋根材は、スレート(コロニアル)だと思います。安く、また軽量なので、標準仕様にしている会社が多いようです。 

 ところがスレートは、商品にもよりますが、10~15年おきに塗装が必要となります。そして寿命は30年程度だといわれており、その都度ふき替えなければなりません。イニシャルコストは安いものの、維持コストが高く、経済的に有利とはいえないのです。

 そこで、最近多くなっているのが「ガルバ」と呼ばれるガルバリウム鋼板です。ガルバは、金属鋼板を亜鉛だけでなくアルミニウムやシリコンでメッキしたものです。亜鉛だけでメッキした金属屋根であるトタンに比べて、対応年数が長くなっており、人気を集めています。
 ただガルバには、その派生ともいえるSGL(スーパーガルバリウム鋼板)があり、これをガルバと呼んでいる工務店もあります。

 SGLは、ガルバのメッキにマグネシウムを添加したもので、ガルバの3倍の耐食性があるといわれています。ガルバを採用する際は、それがSGLなのかどうかを確認するべきでしょう。

 また北米で定番的な屋根材のアスファルトシングルも増えてきています。ガラス基材にアスファルトを浸透させ、表面に石粒を吹き付け接着した屋根材です。以前に比べて改良され、耐用年数が伸びている材質です。軽量で耐震性も高く、シート状で扱いやすく複雑な屋根の形状に向いています。

 さらに耐久性の高い屋根材として、陶器瓦があります。ガルバに比べて重いため、耐震性能の確保には不利ですが、従来の瓦よりもかなり軽い軽量のものもあります。維持コストを重視するならば、有力な選択肢です。

外壁は素材の選択肢が多い

 外壁材は、屋根材以上に多種多様な素材が選べます。主な材質としてのサイディング(板状の外装材)には、窯業系、金属系、木質系、樹脂系などがあり、左官系の仕上げにもモルタルや漆喰をはじめさまざまなタイプがあります。ほかに、ALC(軽量気泡コンクリート)や、最近人気が高まっている板張りなども含めると多くの選択肢が存在します。

 最も一般的な窯業系のサイディングだけを見ても、メンテナンス頻度が10年程度のものから40年程度のものまで幅があります。そのため「窯業系サイディング」とひとくくりにして、その良しあしを語ることはできません。ほかの外壁材についてもひとくくりにできないのは同様です。

 したがって、外壁材の選定時に、個々の製品の耐久性やメンテナンスのスケジュールを確認しながら選定することが重要です。
 またサイディングの場合、一般的にはボードのつなぎ目をシーリング材で充填します。ただ、シーリング材は定期的に打ち替えが必要です。そしてその必要頻度は、シーリング材の種類によってもかなり異なります。外壁材にサイディングを採用する場合は、耐久性を考えたシーリング材を選択しましょう。

コストのかからない板張り

 2021年に「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が成立しました。従来は公共建築に限り木造化が推進されていましたが、民間建築物も対象になりました。最近は、外壁に無垢素材の板張りが採用されるケースが増え、賃貸住宅での採用も見受けられます。

【板張り外壁の⾼気密・⾼断熱賃貸住宅の例】

▲(出所)夢・建築工房

 無垢材の板張りは、寿命が短く、メンテも大変だと思われがちですが、意外に長寿命で、メンテサイクルも長いのです。また仮に一部の木が劣化した場合も、ほかの外壁材に比べて、部分的な補修が可能となります。

 賃貸住宅で無垢材の板張りというのはイメージしにくいかもしれませんが、高気密・高断熱で無垢材板張りの物件(画像参照)は、とても人気を集めているようです。 

維持の仕様を意識する

 防蟻(ぼうぎ)の仕様も維持コストに影響を及ぼします。一般的には5年ごとに点検して、再施工することになります。ホウ酸処理や加圧注入材ならば、防蟻効果に永続性があるため、5年ごとの再施工の費用はかかりません。

 日本は、諸外国に比べて、イニシャルコスト重視で、ランニングコストをあまり考えない傾向が強いようです。しかし、今回紹介した維持コストを考慮した仕様にすることで、中長期的な賃貸住宅の事業性は高まります。ぜひランニングコストを意識しながら仕様を検討してください。

住まいるサポート(神奈川県鎌倉市)
高橋 彰代表取締役

全国で180社以上の工務店などと提携し、家主とのマッチングを中心に高気密・高断熱住宅に特化した住まいづくりのサポートサービスを提供。性能にこだわる建築家の紹介や、高断熱賃貸住宅プロジェクトサポートも手がける。東京大学大学院修了。現在、同大博士課程で高断熱木造建築について研究中。
(2025年 5月号掲載)

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