【連載】色彩の力:8月号

賃貸経営住宅設備・建材

Vol.8 緑は目の負担が少ない色
居心地の良さを醸し出す

目に穏やかな作用がある

 訪れた建物で「何となく落ち着く」「目に優しい」などの感想を持つことはありませんか? 実はそういった印象の裏側には、色の効果が働いています。

 今回のテーマは緑。自然の中で見慣れている色ですが、建築空間への生かし方となると、意外に奥が深い色でもあります。

 まず緑は視覚的に「負担の少ない色」といえるでしょう。人間の目は、赤・青・緑の光を感じ取るための錐体すいたい細胞を持ち、その中でも緑に対する感度が高く、ピントも合わせやすいという特性を備えています(緑色を感じる錐体が多い理由には、初期の人間が森の中で暮らしていたため緑を見分ける機会が多かったからという説があります)。そのため、長時間緑色を目にしていても疲れにくく、「目に優しい色」とされているのです。

個性を出しつつ、落ち着きのある空間を演出する緑

 例えば、パソコンでの作業中に一度視線を外し、観葉植物や遠くの緑を眺めると、目の緊張が和らぎ、リフレッシュ効果が得られることがわかってきました。

緑は引き算で演出する

 建築やインテリアにおいても、緑は安心感や穏やかさを与える色です。落ち着いたモスグリーンやオリーブグリーンなどを使用すると、無難さの中に程よい個性と品のある印象を添えることができます。

 部屋の壁の一面に取り入れれば、部屋全体が引き締まり、視覚的にバランスのいい、落ち着いた空間になります。こうした色の効果は、賃料に直接跳ね返らなくても「選ばれる可能性」を高める要因の一つになるでしょう。

 一方で、緑といってもすべてが癒やしにつながるわけではありません。例えば道路標識や非常口に使われるような原色のグリーンは、視認性を重視した人工的な色です。これを室内に用いると、空間に対して強すぎる印象を与え、落ち着きとは逆の方向に作用してしまうこともあります。

 ポイントは「自然になじむ緑」を選ぶこと。壁紙やカーテンなら、少しくすみのあるグリーンや、素材に植物柄をあしらったものも効果的です。ステージングの際に、照明の色と組み合わせて室内に観葉植物を置くと、明るさと安心感を同時に与えることができるでしょう。

 緑は、強調しすぎなければ「いい空間だな」という印象をそっと残してくれます。日常に寄り添い、ストレスを和らげる色だからこそ、賃貸の部屋づくりでも心強い味方になるのです。

眞井彩子(さないさいこ)

プロフィール
色と旅をこよなく愛するカラーコンサルタント。自らも賃貸物件の運営を行い、色の力で満室を継続中。不動産のカラーコーディネートのほか、パーソナルカラー診断やカラーセラピー、色がテーマのまち歩きなど、色彩を通じて空間や人生に彩りを添える専門家として多方面で活躍中。著書「365日の色 彩暦」シリーズで、多くの読者から支持を得ている。

(2025年 8月号掲載)

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