【連載】店舗のプロが解決!店舗不動産オーナーの困りごと:8月号掲載

賃貸経営店舗・オフィス

マスターリースに踏み切った理由とマスターリースを行ったことで変わった点

 前号では、マスターリースの基本情報について解説しました。今回は、TRNグループ(東京都港区)が過去に行った案件を参考に、不動産オーナーがどのような課題を感じ、マスターリース契約を行うことでどのような結果を得たのか、実際の事例を紹介します。マスターリース契約を検討している人は、ぜひ参考にしてみてください。

【マスターリースの事例】ケース1

〈課題〉
築年数の古い自社ビルを事務所として利用していたが、事務所移転に伴い空き物件に。空中階を中心にテナント誘致が課題となっていた。

〈解決策〉
繁華街という立地を踏まえて、飲食ビルへのコンバージョン工事と耐震補強工事を実施。マスターリース契約をすることで賃料収入の安定化を図り、ビルやテナントの管理も一任。さらに、地域活性化という新たな役目を担う安心・安全なビルとして生まれ変わった。

 

一棟丸ごと飲食ビルに繁華街に合う用途変更

 ケース1の事例では、ビルが立っている地域は当時、空中階に飲食店をつくるという文化があまり浸透していませんでした。そのため、一棟丸ごと飲食ビルにしてしまうという考えがオーナー側になく、飲食ビルにした後、テナントと来店客を確保することができるのかという不安がありました。飲食店を出店したい人のほとんどは、駅前や繁華街の立地を求めます。そのため、ビルが立つ繁華街であれば、事務所より飲食ビルのほうが、賃料収入が上がり資産価値の向上も望むことができます。

 ビルの活用方法に悩んでいる場合は、周辺地域や立地なども鑑み、その土地に合った用途変更を行うのも一つの手段です。事例のビルは、新耐震基準の建物ではなかったこともあり、耐震補強工事を実施し、より安心・安全なビルとして生まれ変わりました。

 また、マスターリース契約の締結を前提とすることで、どれくらいの期間で投資した費用が回収できるのかも想定しやすくなります。そのため、テナントが付かず賃料収入を得られなくなってしまうリスクを回避できます。賃料収入の安定を図ることができる点、ビル全体の管理からテナントの管理まで一括で任せることができる点、工事などの専門知識が必要な部分においても専門家に任せられる点から、マスターリースは有効な手段といえます。

【マスターリースの事例】ケース2

〈課題〉
近隣公示価格が上昇している商業エリアに位置した平屋建ての事務所は、容積に対し余裕があり容積率を消化しておらず、不動産の本来の価値を生み出せていない状況にあった。

〈解決策〉
立地と容積率を生かし、投資効率が高い5階建てのビルに建て替えた。マスターリース契約を締結し、賃料保証を行うことで、着工前の段階で投資利回りを確定し、安定した賃料収入を確保。バリューアップを図ることができた。

 

平屋から5階建てビルへ立地と容積率を生かす

 次に、ケース2の事例です。商業ビルは、各テナントが内装を施工することが多いため、レジデンスやオフィスのようにフロアの内装を仕上げる必要がなく、立地によっては投資効率が高くなります。また、マスターリース契約を締結して賃料保証を行うことで、着工前の段階で投資利回りを確定することが可能です。今回のケースは、商業立地にもかかわらず平屋建てで、容積に対し余裕があり容積率を消化しておらず、不動産の価値を十分に生かし切れていませんでした。

 5階建てのビルに建て替えて、マスターリース契約を締結することで、安定した賃料収入を確保しつつ、バリューアップを図った事例です。金融機関にとっても、借主が決まっている状態での融資・審査となるため、手続きもスムーズでした。

 建て替えを行う際は、建て替え後にどのようなビルにするのかを決めたうえで、建てたいビルの分野に強い工事事業者に相談するようにしましょう。そうすることで、看板の設置位置やエントランスのデザインなども効果的に設定できます。

業種により異なる設備容量 計画段階でしっかり把握

 マスターリースを活用し、資産価値の向上を図った二つの事例を紹介しました。もし新築でマスターリースを行う場合は、容積や設備内容をきちんと把握しておく必要があるため、建築事業者の選定は慎重に行いましょう。

 商業ビルの場合は、テナントの業種によって希望の水道、電気、ガスなどのインフラ設備容量が変わります。テナントと条件の合意には至ったものの、ビルの設備容量が合わずに出店を見送るケースもあります。そのため、建築の計画段階から設備容量を確保することが重要です。その点も踏まえて、地域や用途に沿った建築事業者を選定する必要があります。マスターリース契約を締結する際は、修繕区分や管理区分、契約期間、賃料改定の時期などをきちんと定めておくことが大切です。

 空室に悩んでいる物件だけでなく、商業立地であるのに、ほかの用途になってしまっている物件や、容積消化が十分にできていない物件、本来の価値を生み出せていない物件は、マスターリースを活用したビルの建て替えを検討してみるといいでしょう。不動産事業者とマスターリース契約を結ぶことで、現在抱えている課題や問題を解決できる可能性があるかどうかを判断することが大切です。何に重きを置いて不動産を運用していきたいのか、その部分に親身に寄り添ってくれる不動産事業者であるかどうかを見極めましょう。

マスターリース活用時の注意事項

◆理解しておこう
・直接契約と比較すると賃料が少し下がる傾向にある
・マスターリースを行ったとしても、オーナー区分の資産が壊れた場合は、負担が発生する
・新築の場合、建設費用を支払うのは家主

◆注意しよう
・新築や建て替えを行う場合、建設会社の選定は慎重に行う
・修繕区分や管理区分、契約期間、賃料改定の時期を定めておく
・現在抱えている課題を解決できる不動産事業者を選ぶ
・対象ビルの地域や用途に沿った不動産事業者を選ぶ

 

TRNグループ
TRNシティパートナーズ
柳文基取締役

2019年、店舗流通ネット入社。自社物件のコンストラクションマネジメント業務や、物件購入後のバリューアップ業務に従事。22年4月、TRNシティパートナーズ設立に伴い出向し、23年6月に同社取締役に就任。24年4月には、戦略的視点を持って、取得する商業不動産の価値を最大化させることをミッションに、取締役兼プロパティマネジメント事業部部長に就任。

(2024年8月号掲載)

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