廃業した銭湯の復活プロジェクト
九谷焼タイル絵の富士山がシンボルに
長町せせらぎビル
松の湯コミュニティーマネージャーの神並氏(左)と、ビル全体をプロデュースする新木氏(右)
金沢市を代表する繁華街、香林坊。ここで1948年の創業以来、地元の人々に親しまれてきたのが銭湯「松の湯」だ。前オーナーの急逝により、2020年に廃業するも、22年に新オーナーの元、新生・松の湯として復活した。RC造6階建ての建物は、銭湯を中心としたコミュニティースペース「長町せせらぎビル」となり、松の湯は1階で営業する。2階には湯上がりにくつろげる休憩所、イベントスペースとして使用するラウンジがある。3階にはリラクゼーションサロンと介護事業所が入居。4階と6階の一部はマンスリーマンション、5〜6階は賃貸マンションだ。
建物は築38年。前オーナーが急逝し、売りに出されていた同物件に関心をもったのが、エイジェーインターブリッジ(東京都中央区)の新木弘明社長だ。同社は金沢や京都で80棟以上の町家を再生し、宿泊体験事業を展開している。「銭湯は日本文化を体験できる観光コンテンツとして最高です。国内外の人々が集うコミュニティースペースとなる銭湯を復活させたいと思いました」(新木氏)。従来から同社の事業に出資している不動産会社が購入してオーナーとなり、新木氏がビル全体のプロデュースを担った。
▲After(左):「銭湯を軸にした“人が交わる場”」がリノベーションのコンセプト。まちを行き交う人たちが休憩できるようにとエントランス前にアーチ状のベンチを設けるなど、コミュニティービルとして生まれ変わった
▲Before(右):70年以上にわたり、金沢のまちなかにある銭湯として地域住民や周辺で働く人々に親しまれていた
ビル再生の壁となったのが、公衆浴場の営業許可だ。廃業した銭湯が営業許可を取り直すことは石川県では前例がなく、認められなかった。それでも諦めない新木氏の熱意に動かされたのが、地元の不動産仲介会社に勤めていた神並大輝氏だ。神並氏は長町せせらぎビルを新木氏に紹介した仲介担当者。「地元の人間として銭湯復活の先頭に立ちたい」と決意し、コミュニティーマネージャー(番頭)として松の湯の運営に携わるため、会社を退職して独立。2軒の銭湯で番頭の修行をしながら金沢市の浴場組合や市長と交渉を重ね、開業に漕ぎ着けた。
内装中心の再生工事では、1階は旧・松の湯を彩ったステンドグラスを残しつつ、浴槽を入れ替えた。男湯・女湯を見渡す番台を廃止して入り口に受付を設けるなど、より入りやすい仕組みに。目玉は、九谷焼のタイルを使った富士山の壁画だ。「金沢伝統の九谷焼で日本の象徴を表現しました」(新木氏)
周辺にはホテルも多く、地域住民だけでなく、国内外から観光や出張で訪れる人々の利用も多い。「今後は2階ラウンジで、地ビールの期間限定店や芸げい妓この舞の鑑賞会など、金沢ならではの文化を発信するイベントを行いたいですね」(新木氏)
▲5〜6階の賃貸マンションは全8戸中2戸が入居中。主力は30㎡のワンルームで、賃料は7万4000円 管理費が6000円
▲4階と6階のマンスリーマンションは法人契約が多く、全6戸中4戸が入居中。主力は30㎡のワンルームで、賃料は1日4100円から
(2024年1月号掲載)
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