【連載】転ばぬ先の保険の知識:1月号掲載

賃貸経営保険

第29回 賃貸経営の環境変化で保険はどう変わる?⑤

「家賃損失」というリスクをヘッジするための保険②

 2020年4月、改正民法第611条「賃借物の一部滅失等による賃料の減額等」が施行されました。

 これは、火災や自然災害などによって賃貸居室が物理的に使用不能となった場合には、入居者から特に請求がなくても家賃を減額しなければならないというものです。

 このような家賃損失を補償するのが「家賃収入補償保険(特約)」ですが、どんな家賃損失でも補償されるわけではありません。保険でリスクヘッジすることができる事故、できない事故を把握しておくことは、賃貸経営には極めて重要なことではないでしょうか。

家賃損失が発生する事故自然災害以外でも多い

 家賃収入補償保険の補償対象は、原則火災保険の主契約(基本補償)と同一です。地震・噴火に起因しない火災および落雷・風災・雹ひょう災・雪災・水災などの自然災害に加えて、給排水設備の不備による水ぬれ損害、建物外部からの物体(車両など)の衝突、盗難による損害、放火なども補償の対象になっています。そのため、家賃収入補償保険においても前述の事由によって家賃収入が減少した場合には、補償の対象となります。

「水災」がオプション(または不担保)になっている火災保険もありますが、家賃収入補償保険では「水災」による家賃損失は常に補償されています。

 ただし、火災保険に特約で追加する場合(家賃収入補償特約)は、火災保険の補償範囲に準じます。

営業的損失を補てんする保険地震保険の補償項目は対象外

 家賃収入補償保険は、火災保険の上乗せ補償である地震保険で対象としている補償項目(地震、噴火、津波、これらに起因する火災や流失など)は、すべて除外されています。

 地震保険制度が「生活の安定と復旧」を目的としている公共性の高いものであるのに対し、家賃収入補償保険は、いわば営業的損失を補てんする「事業用の保険」であることから、補償の対象から除外されているのです。

 地震に関連する災害がすべて家賃収入補償保険の補償対象にならないという現実を鑑みると、ここで改めて、賃貸経営における地震保険の重要性・必要性が明確になってくると思います。

孤独死や自殺による家賃損失家主費用特約でカバーする

 家賃損失の中でも長期間にわたって損害が続くのが、孤独死や自殺の発生に伴う家賃損失です。いわゆる「心理的瑕疵かし」であり、居室の原状回復が完了してからも、一定期間家賃収入の減少を余儀なくされることもあります。そのため、最も深刻な家賃損失の一つだといえます。

 このような家賃損失だけでなく、原状回復のための施工費用(消毒や消臭費用を含む)、遺品整理や葬儀の費用、相続財産管理人選任申立費用なども併せて補償できるのが「家主費用特約」です。賃貸経営に与えるダメージの大きさを考えれば、このリスクヘッジは、これから迎える超高齢社会に欠かせないものになるのは間違いありません。

 この特約は、家賃収入補償特約の上乗せ補償であるため、単独での特約付帯ができません。必ず家賃収入補償特約とセットで契約する必要があります。また、ある特定の居室だけを契約することができない(一棟すべての居室を契約対象とする)ことにも留意しておきましょう。

解説 保険ヴィレッジ 代表取締役
斎藤慎治氏

1965年7月16日生まれ。東京都北区出身。大家さん専門保険コーディネーター。家主。93年3月、大手損害保険会社を退社後、保険代理店を創業。2001年8月、保険ヴィレッジ設立、代表取締役に就任。10年、「大家さん専門保険コーディネーター」としてのコンサルティング事業を本格的に開始。

保険の豆知識 家主費用特約

 賃貸住宅の居室内で死亡事故(自殺、犯罪死または居室内の物的損害を伴う孤独死)が発生したことによる家賃損失や各種費用損害を補償する特約。補償はあくまでも賃貸居室内で発生した死亡事故に限られるため、居室外(賃貸住宅の共用部分を含む)で入居者が死亡した場合の家賃損失や遺品整理費用などは補償の対象にはなりません。

次の記事↓
【連載】転ばぬ先の保険の知識:2月号掲載

一覧に戻る

購読料金プランについて