非常識な主張をする家主の 管理を断ることがある

賃貸経営賃貸管理#不動産会社が贔屓する 「愛され家主」

 

 

――日々の家主とのやりとりでストレスを感じることはありますか。

春川:家主とのトラブルは、ずしんときますね。入居促進のため、ある家主に家具・家電付きを提案した際のことです。「管理会社で家具家電を入れて、その費用は家賃から精算してほしい」と言われたのですが、知らないうちに物件が売却されてしまったんです。しかも決まってからの事後報告。当社で設置した家具・家電の費用を回収できなくなってしまいました。

工藤:それはひどい…。当社はそこまでのトラブルはないのですが、後から何かが起きそうな家主の物件は、結果としてですが積極的に仲介していません。例えば、入居者の審査を自分でしたがり、その基準が高すぎる人。管理委託しているのなら、こちらに任せてほしいと常々感じます。

梶原:こちらも人間ですからね。面倒な家主とは関わりたくないと思ってしまいます。管理をお断りしても仕方のないケースが多々あるのが現実です。

美山:そうですね。当社も管理を終わらせるように促すことがあります。先日も1人の家主と管理契約を解除しました。工藤さんと似た話なのですが、「今回決まった入居者はこういう人です」と家主に報告したところ、家主が勝手に審査をして入居者に連絡をしてしまったんです。「駄目ですよ」と言ってもやめない。「私の言うとおりにやりなさい」と譲らなかったんです。結局、わが社のやり方とは合わないのでとお伝えして、管理自体をお断りしました。

 

――入居中や退去時にも、家主が原因で困ることはありますか。

工藤:私が経験した例でいうと、竣工してすぐに満室になった部屋がありました。それからたった3カ月後、「相場と比べて家賃が低いから、全戸家賃を3000円上げてほしい」と依頼されました。ルール上は、入居者の同意が得られればできますが、入居してすぐですし、入居者にとっては理解しがたい申し出になるでしょう。思い付きで非常識な要求をしてくる家主もいるものです。

美山:どれくらいの割合で非常識な要求をされますか?

工藤:うちで取引のある300人のうち、10人くらいのイメージですね。いちいち真に受けていると、時間が取られて本来の仕事がおろそかになってしまうので一歩引いています。この家主の物件は今は管理していません。

春川:当社は原状回復工事で費用を踏み倒されそうになったことがあります。退去後に立ち会いもしてもらって原状回復工事の見積もりを出し、それに許諾をもらったにもかかわらず、請求書を発行した途端「勝手に工事をした」とかたくなに支払いを拒んだ家主がいました。

梶原:常識的な家主であっても、認知症のリスクはあります。口約束を全部忘れてしまうだけでなく、来店して暴れ出した人がいました。そのため、管理契約を解除した経験があります。家主自身が認知症を発症するなんて想定していませんでした。その後は口約束はやめて、書面や録音で記録を残すようにしています。

春川:記録を残すのはいいですね。

工藤:私も記録しています。この間も、駐車場のフェンスの工事をしたときに、いざ明細書が完成したら「こんな依頼はしていない」と言われました。そういうときに議事録や録音を本人に確認してもらうのは有効です。

 

――管理手数料はいくらですか。

梶原:管理手数料は基本的に家賃の5%。管理の仕事だけでは当然利益はないようなものです。一部3%の家主もいますが、それは売買が絡んでくる場合にのみ、総合的な判断で受けています。

工藤:うちも基本的には5%ですね。

美山:こちらも5%ですが、昔から付き合いのある家主で定額という人がいます。5%よりもはるかに高い金額なので、やる気が増して何でもしたいという気持ちになります。

春川:一部、昔から付き合いのある家主以外は基本的には5%です。正直、入居者の苦情を受け付ける部署のメンバーは疲れ切っていますので安いのではないかと感じますね。

梶原:少し前に、現場に出ていたはずの営業社員が全速力で走ってきたことがありました。何事かと見ると、ごみを敷地に投げ捨てることを注意された入居者が逆上し、包丁を持って彼を追いかけているんです。正真正銘、命がけの仕事です。

美山:私も包丁ほどではないですが、先日、怒った入居者に栄養ドリンクの瓶を投げつけられました。

梶原:リスクのある仕事であることを知らず、管理手数料5%は高いと言われると腹が立ちますね。

美山:命がけのケースではないとしても、クレームを入れてくる入居者はたいていひどく怒っています。築古物件では修繕のために現場に行かなければならないことも増えるので、何度も往復する手間もばかにできません。理由もなく管理手数料の値下げを求められると悲しくなりますね。

春川:やる気がなくなりますね。ひどく怒っている状態の入居者を、家主にも見てほしい。対応するのは本当にストレスがたまります。ストレスのせいで、一生懸命育てた後輩たちもあっさり辞めてしまう。何とも言えない気持ちです。

梶原:社員を守ることも大事なマネジメントの仕事です。メンバーの負担を考えて、しんどい案件は私が前面に出て受けるように気を付けています。

工藤:そう考えると、管理手数料は8%くらいは欲しいように思います。10%だと高いかな。当社は親の代から続く会社なのですが、あるとき管理手数料を3%から5%に上げたことがありました。当時は苦情は来なかった。田舎だからかもしれませんが、日頃から家主と世間話をしたりする関係性があったからかもしれません。

梶原:仕事内容を考えたら、私は倍くらいが適正だと考えています。家主側も、管理手数料が安ければいいというわけではないと知ってほしいです。管理手数料だけを比較して、安い会社に任せた家主もいますが、そういう場合は裏がある。更新料がかからないはずなのに入居者から更新料を取る、管理会社を変更する際に違約金を取られるなどです。

 

――目先の「お得感」を追い求めて、ほかの部分も節約しようとする家主はいますか。

工藤:正直、修繕工事の分離発注はやめてほしいです。そういう要望を出す家主は何人かいるのですが、うんざりしてしまいます。確かに少し安く上がるんでしょうけれど、こちらとしては手間が増えるだけ。ですので、管理契約を結ぶときに5万円以下の修繕はこちらに任せてもらうという内容を盛り込んでいます。

梶原:相見積もりを取って、ほんの少しの差額なのにほかの事業者を選ぶケースも嫌な気持ちになりますね。日頃の管理を軽く見られているように感じるからです。賃貸経営をビジネスだと捉えていればその先の関係性も考えるところ、刹那的に得をすることを選んでしまう。特に大阪なので、値切るのが当たり前で。「値切らんと契約しない」「端数を切ってくれ」と基本みんな言いますが、私は折れません。

春川:関西ほどの値切り文化はないですが、私も自分で事業者を手配したほうがよかったとネチネチ言われることがあります。分離発注を求められることもあります。でも、分離発注だと全体として工事が完了したかどうかわからないので、本当に大変です。

工藤:しかも、修繕で利益が出るわけでもないんです。当社は、自社の利益分は見積もりに含めていません。手間を考えれば、1000円でも自社の利益分を乗せたほうがいいのだろうなとは思うのですが。

美山:うちも純粋にかかる費用だけで見積書を作っています。自社の手間賃は乗せていないです。

春川:当社は見積時には少しだけ高い金額を示しています。でも、それは値下げを求められた時に値下げをする余裕として使うためです。ここ数年で修繕費用がぐんと上がったので、家主が高く感じることへの配慮です。少しでも下げることができれば、多少納得感があるようなので。

梶原:私は見積もりに自社の利益を2割程度乗せています。多少実入りがないと見積もりを出す意味もありませんし。管理手数料だけでは商売が成り立たないので、手間が増えるだけのことはできません。

美山:本当ですね。管理だけでは成り立ちません。ですので、管理だけでは利益が出なくても、そこをしっかりやって家主の信頼を得て、物件を購入するときに仲介をさせてもらうということも視野に入れています。

工藤:確かに当社も賃貸仲介を基本としながら、ほかの事業の売り上げにつなげています。売買、管理、それに付随してリフォーム。それから買い取り再販、宅地造成。総合的に見て事業を成立させているところがあります。

美山:自分の賃貸経営のために、少しでも経費を節約したい気持ちはわかります。でも、結局いい入居者を案内されなくなるので損をしているのではないでしょうか。

春川:そうですね。ここまでお金の話が例に挙がっていますが、結局事業者のことをおもんぱかってくれるかどうかなんだと思います。こちらのことを考えようともしない家主の物件には、ここだけの話、絶対に客付けをしたくありません。

梶原:それは当然です。どんな態度でも平等に扱うなんて、ビジネスとしてあり得ません。

工藤:人のいい家主や、しっかり経営している家主の物件では、入居者もトラブルが少ないと感じますが、それは偶然ではなくきちんと理由があるということでしょう。

 

――結局、家主と管理・仲介会社の関係性がこじれると賃貸経営はうまくいかないということですね。

梶原:値切ること自体が悪いのではないのです。私たちの人件費や原価も知らずに適当なことを言ってくるから気分を害されるのです。家主業は関係事業者である「人」を使ってする商売。相手の気分を悪くすれば、気持ちよく管理してもらえる可能性はかなり減ります。結局、家主が損をするんです。

美山:あとは、人の話くらいは聞いてほしいです。例えば、設備故障一つとっても、明らかにただの劣化なのに入居者のせいにする。このように、都合の悪いことは全部他人のせいというスタンスだと、借主と貸主の間に挟まれる管理担当者は困ります。トラブル時に間に入るのは私たちの仕事で当たり前のことではありますが、懸命に説明しているのですから、歩み寄りは見せてほしいです。

春川:管理や仲介の担当者を下に見てくるのも腹が立ちます。売買の担当者は持ち上げて、それ以外の担当者をけなしてくる。相手によって態度が違う家主は、人として信用できません。

工藤:家主と話せば、大体分かりますよね。最初に違和感を抱いた家主とは、後々トラブルになることが多いです。

一同:うなずく。

美山:一方で、ふとしたときに「ありがとう。あなたに任せていてよかった」と言われると少し救われる気がします。

春川:そうですね。「お宅だからすぐ決まってよかったわ」と言われてうれしかったです。

工藤:「ありがとう」か言われたらうれしいだろうな。

梶原:そうですね。お金を払っているからやってもらって当たり前、となるとモチベーションは下がります。日頃、管理担当者がどのように働いているのか、家主にも知ってもらいたいですね。

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