永井ゆかりの刮目相待:8月号掲載

賃貸経営賃貸管理

連載第83回 家賃は何で決まるのか

地域に「暮らす」価値

 先日、久しぶりに「大家の学校」の校長を務めるまめくらし(東京都練馬区)の青木純代表を取材した。その取材記事については、本誌の9月号に掲載するが、青木代表の話はいろいろ考えさせられた。

 青木代表は家主でありながら、地元はもちろん、各地域を活性化させるためのプロジェクトに関わっている。例えば、自身が生まれ育った豊島区にある池袋東口グリーン大通りでの活動はその一つ。豊島区役所と交渉して、通りで路上販売ができるようにしたり、通行人や地域住民が休めるようなチェアを作ったり、年に数回、通りでマーケットを開いたりしている。

 また全国の自治体を対象にリノベーションスクールを展開するリノベリング(東京都豊島区)のメンバーとして、各地でまちづくりの担い手を発掘、養成をし、実際に事業のサポートもする。

 青木代表は「その場所に暮らす価値」に焦点を当て、その人の日常の中で必要な場所を提供することが価値となると考える。彼が手がけるプロジェクトでは、住人が主体的に生活することによる幸福感に目を向けているのだ。だからこそ、多くの人が集まり笑顔になる。

「住む」の対価を考える

 そんな青木代表と話して考えさせられたことがある。家賃は何で決まるのか、ということだ。一般的には、立地、部屋の面積や間取り、設備、仕様、そして築年数で決まる。不動産会社の査定基準も同様だろう。そのため、貸す側はその条件に目がいき、空室が目立ち始めると、この条件の中で変えられる設備や仕様、時には間取りといったハード面の改善を試みる。空室対策の王道だ。

 ただ、問題はコストがかかるうえに、コストをかけた分だけ家賃収入のリターンが高くないこと。特に今は建材や設備の価格が上昇していて、上昇分だけ家賃に転嫁することができずにいる。無論、家賃を下げれば入居者は決まりやすくなる。ただ、家賃を一度下げると依存してしまい、空室が長引くと下げる、を繰り返す「負のスパイラル」に陥る。

 そんな時代だからこそ、いま一度、家賃は何で決まるのかを、考えるいい機会かもしれない。入居者側から考えてみると、そもそも何に対してその住宅に住む対価、つまり家賃を払うのかを考えたい。自分が借りた住まいに限定した満足度への対価だろうか。
「敷地に価値なし、エリアに価値あり」と言ったのは、建築・都市・地域再生プロデューサーであるアフタヌーンソサエティ(東京都千代田区)の清水義次代表。これからは建物のリノベだけではなく、エリアのリノベが重要だという意味だ。

 最近さまざまな地域で活動する地主・家主を見ると、地域の清掃活動や敷地内でのイベントを行うことで、入居者に限らず地域の人が交流する機会をつくっている。入居者も地域住民も主体的にその地域に暮らすことで、幸福感の高い生活ができる。これからは、この幸福感こそが住宅に住むことへの対価となり、家賃を決める際の条件になるのではないか。

Profile:永井ゆかり

東京都生まれ。日本女子大学卒業後、「亀岡大郎取材班グループ」に入社。リフォーム業界向け新聞、ベンチャー企業向け雑誌などの記者を経て、2003年1月「週刊全国賃貸住宅新聞」の編集デスク就任。翌年取締役に就任。現在「地主と家主」編集長。著書に「生涯現役で稼ぐ!サラリーマン家主入門」(プレジデント社)がある。

(2024年8月号掲載)

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