【特集】古くなったら避けられない 大規模修繕の基礎知識⑥

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家主に聞いた 大規模修繕での工夫点

 大規模修繕を経験した家主は、どのような点に注意し、どういった工夫をしたのか。具体例を聞いた。

担当者、代表者、過去実績を直接確認し依頼

松浦昭オーナー(77)(堺市)

 大阪市に築39年のRC造8階建て賃貸マンションを所有する松浦昭オーナー(堺市)は、これまでに外壁工事を2回実施した。

 建物は1階にテナントが3店舗入居し、2~8階が住居で全28戸、間取りは1LDK~3LDK。1回目の外壁工事は竣工から12年後だったが、工事が完了して数年後に施工会社が倒産。松浦オーナーにとって苦い経験となった。

「施工会社から提案を受けて、安易にその会社での工事を決めました。リシン仕上げをサイディング板に変更しましたが、その後に施工会社が倒産し、アフターフォローはなく、一部で施工不良も見つかり、私の負担で補修しました」(松浦オーナー)

 それから12年後の2回目の外壁工事では、信頼できる施工会社の選定に注力した。2〜3社の担当者に直接会って業務に対する姿勢や実績を尋ね、そこから1社に絞り、その会社の代表にも直接会った。同時期に、同社が過去に修繕工事を行った3物件を訪問。物件のオーナーにも話を聞き、同社の仕事ぶりを確かめた。それらの結果、「信頼に足る」と判断して同社に依頼し、無事に工事を終えることができた。

能動的に工事項目合致の相見積もり入手

児玉和俊オーナー(44)(東京都新宿区)

 21年に父親から賃貸経営を引き継いだ児玉和俊オーナー(東京都新宿区)は、東京都新宿区区に築34年のSRC造11階建てのオフィスビルを所有する。

 ビルは1フロアが1区画で約83㎡。2~9階がオフィスで10〜11階は児玉オーナーの自宅だ。24年3月から6月まで、27年ぶりに2回目の大規模修繕を行った。

 内容は屋上の構造物の撤去と防水、ならびに外壁修繕。費用は全体で約2500万円だった。人件費や資材が高騰する中、児玉オーナーは3社から相見積もりを取った。その際、工事項目をそろえてもらうよう工夫した。

 3社のうち、本命でもあった最初に依頼した1社の見積書を、社名と単価を伏せて工事項目だけが見える状態にし、ほかの2社に提示。「この工事項目にそろえて見積もりを出して」と依頼した。3社の見積もり内容の比較が容易にでき、金額、施工内容、工事担当者や代表者の誠意を含めて総合的に判断して本命の1社に依頼した。

「それぞれの施工会社なりの提案内容や、『この項目は必要?』といった意見は、別途、別ページにまとめてもらいました」(児玉オーナー)

範囲は事業計画に照らし合わせて決める

月村彰男オーナー(75)(東京都大田区)

 「大規模修繕をどこまでやるかはその物件の事業計画に照らし合わせて考える必要があります」。こう話すのは、東京都をメインに35棟612戸を所有する月村彰男オーナー(東京都大田区)だ。月村オーナーは、23年に中央区にある全31戸SRC造の「月村マンションNo・33」で外壁防水塗装、屋上防水などに加えて共用廊下の長尺シートの貼り替えとエレベーターの入れ替えを行った。工事にはおよそ2300万円を費やした。

 当時築43年だったが、SRC造で躯体はしっかりしていた。専有部についても14年に購入以降、空室が発生するたびにスケルトンでフルリノベーションを行っていた。そのため、家賃も購入時より5万円高い15万円で貸している部屋もある。「今後も10年、20年と収益を生むことのできる物件に造り替えていたため、大規模修繕において共用廊下のシートの貼り替えとエレベーターの入れ替えまで行いました」(月村オーナー)

 仮に、建て替えや売却を見込んでいる物件であれば、外壁塗装だけでも問題はないだろう。だが、専有部のリノベを行い、家賃アップを実現している物件だからこそ、専有部に見合った共用部のアップデートも必要だと考えた。月村オーナーは「リノベ後は高所得層をターゲットに据えています。ターゲットに合わせた物件を考えれば、大規模修繕の範囲も変わってくるということです」と話す。

 月村オーナーは、半数以上の所有物件で大規模修繕の経験があるため、職人との付き合いも長い。その中で感じることは「安かろう悪かろう」だということだ。近年の職人不足と人工代高騰の折、安い見積もりには注意が必要だという。

見積もりの金額差は2倍以上、判断力が肝要

浅野道彦オーナー(66)(千葉県柏市)

 8棟35⼾を所有する浅野道彦オーナー(千葉県柏市)。24年1月から約3カ月かけて、所有する築40年のRC造マンションの外壁塗装と屋上防水などの大規模修繕を行った。保有物件の減価償却費減少に合わせ、税⾦対策の一環として計画的に修繕を行っている。

 今回、修繕をすることにした理由は三つ。一つ目は、前オーナーが行った大規模修繕から10年以上が経過しておりメンテナンスが必要な時期だったこと。二つ目は、古いイメージを⼀新して賃料アップや空室対策につなげること。三つ目は、売却も見据えているため資産価値アップを狙ったことだ。

 過去に千葉県柏市の⾃宅の外壁塗装や、別のアパートの外壁塗装の際に依頼した事業者を選定した。「今回の大規模修繕では3社の見積もりを金額や作業内容で比較しました」(浅野オーナー)。工期を縛らないことで価格を抑えてもらったという。

事業者の選定後は、躯体の塗装や屋上・ベランダ防水工事、手すりなどの工事範囲を決定、色合いや使用する塗料の種類などを打ち合わせて決めたという。「見積もりでは事業者間で2倍以上も差がありました。工事内容と工期を見て妥当かどうか判断できる力を持つことが肝要だと思います」(浅野オーナー)

▲入居者からの評価も上々の色合い

(2024年8月号掲載)

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