著者インタビュー:地域防災の実践

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地域防災の実践 自然災害から国民や外国人旅行者を守るための実学

普段からの情報共有が災害時に⼊居者を守る

─地域防災の専門家として手がけた国の防災事業もあるのですね。

 国立研究開発法人防災科学技術研究所(茨城県つくば市)が国立研究開発法人科学技術振興機構(埼玉県川口市)から受託した自治体用の防災情報共有プラットフォームを開発する事業に携わりました。それが、ICT(情報通信技術)を適用して一目で危険度がわかるチャートや多言語翻訳アプリの開発などにつながりました。

─日本の防災システムの現状をどのように見ていますか。

 地域により差が大きいのが現状です。公的機関の担当者は数年で異動があるのでノウハウの継承が難しく、必ずしも防災の専門家とはいえないからです。

─災害発生時に家主が入居者に対してできることはありますか。

 地域に詳しくない入居者向けに避難経路や最寄りの避難場所といった情報を提供するといいでしょう。外国人入居者には母国語で伝えると安心につながります。家主自身も被災している場合があるので、できる範囲で構いません。ただ、普段からの準備は必要です。

─どのような準備をしておけばいいのでしょうか。

 家主と入居者、または入居者同士が普段から顔を合わせる機会を設け、話しやすい関係をつくることが準備になります。それが、入居者が地域に関する情報に触れる機会につながります。災害時にどのような手段で何の情報を提供するのかも決めておくといいです。

─外国人入居者に母国語で情報を提供するのは難しそうです。

 災害時に質問されそうなことを入居者の母国語でまとめておくのがお勧めです。私が開発に携わった多言語翻訳アプリもあります。発信者が日本語で発話すると、受け取る人が登録した各言語に翻訳され、複数人に同時に提示される仕組みです。1人対複数人での相互対話が可能なので、観光地のホテルや施設で導入が進んでいます。

─家主や管理会社ができる防災対策はいろいろあるのですね。

 家主にこそできる対策があります。家具の転倒は、災害時に被害が大きくなる理由の一つです。そのため、突っ張り棒タイプより効果的な壁に穴を開けて家具の固定する金具の使用を、賃貸住宅でも了承してほしいのです。これにより被害を少しでも小さくすることができます。

著者:鈴木猛康
出版社:理工図書
価格:2420円(税込み)

概要
多くの自然災害の現場を調査し、地域防災活動に実際に関わってきた著者。その経験と知識を基に、日本の防災対策の歴史と現状から、地域で整えるべき防災体制や防災計画、そして日本人だけでなくインバウンド(訪日外国人)や在留外国人を含めた防災対策まで網羅した。入居者の命を守るための防災対策を考える地主や家主、管理会社にも役に立つ一冊となっている。

著者プロフィール 
鈴木猛康(すずき・たけやす)

1956年、京都府京丹後市生まれ。山梨大学名誉教授・客員教授。82年、東京大学大学院工学系研究科修了後、91年に同大学工学博士取得。2012年の日本災害情報学会廣井賞をはじめ、各種受賞歴を有する。地域防災、リスクコミュニケーション、ICT防災などを専門として、NPO法人防災推進機構理事長、東京大学生産技術研究所リサーチフェローも務める。

(2024年8月号掲載)

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