本業と不動産経営のシナジーを考える

賃貸経営不動産投資#家主#企業の取り組み#築古

事業に別の柱をつくることと 顧客理解が目的

収益不動産を対象とした大規模修繕を行うミツケン(大阪市)。ミツケンでは、事業の柱の一つとして定期収入を得ることと自社の顧客理解のためという二つの理由で不動産経営を行っている。

ミツケン(大阪市)
谷村充功社長(47)

コロナ下で新たな事業 築古戸建てから始める

 現在、ミツケン(大阪市)は法人で4棟25戸を所有、自主管理している。年間の家賃収入は1400万円だ。同社が、不動産経営を始めた理由は主に二つ。一つ目は事業を下支えする安定した収入が欲しかったこと。二つ目は自社でも不動産経営を行うことで、顧客であるオーナーの立場に立って気持ちを真に理解することだ。
 起業以来、増収増益を続けてきたミツケンの唯一ともいえる危機は新型コロナウイルス下で訪れた。初めて収入が減り、しかもいつまでこの状況が続くかわからない状態だった。
「コロナ前まで順調に業績を伸ばすことができ、攻めの経営には自信がありました。しかし、環境変化といったどうしようもない事態から会社の経営を守るという点では事業のやり方に改善の余地があると感じたのです」(谷村充功社長)
 そんなとき、経営者仲間が語り合うイベントで出合ったのが賃貸経営だった。「ドリーム家主倶楽部」代表の加藤薫オーナー(兵庫県伊丹市)と知り合って話を聞き、不動産経営が事業を支えるもう1本の柱にできるのではと考え始めたのだ。「業績が順調でキャッシュも十分にありました。コロナ禍はいい機会になりましたが、本業で得た資金もたまっていて、これを投資で増やすのも必要になってきた時期でした」(谷村社長)
 まずは2021年に築古戸建てを現金で購入。100万円で購入し、諸経費やリフォームに200万円使った。「築古戸建ての現金買いはたとえ失敗しても事業に大打撃を与えるような金額ではありません。最初は少額の物件を選びました」と谷村社長は振り返る。
 雨の日にはテーマパークのアトラクションさながらにザーッと雨漏りがしてしまうような物件だったが、躯体には問題がなかったため自社で修繕できた。幸いにも利回り20%程度で運用している。初めて定期収入を得ることができたという。「躯体さえしっかりしていれば修繕は可能です。同じようなボロボロの見た目でも、シロアリに食われるなどして躯体が傷んでいるものは買ってはいけません。本業で培った知識を生かして見分けています。また、修繕もできるので自社の本業との相性の良さも感じました」(谷村社長)
 次に購入したのが大阪府寝屋川市の築50年の文化住宅だ。1階と2階に4戸ずつ、全8戸で、2700万円で現金買い。この物件では、年配の人が1階を好むため、2階の客付けに苦労するという経験をした。
 また、23年は大阪市旭区に木造の築浅アパートを買い増した。1億2300万円の物件で、ほぼフルローンといえる1億2000万円を借り入れた。事業の経営が順調だったこともあり、返済期間は27年で金利は0・8%という好条件だった。「返済比率は50%ほどで、家賃収入がしっかり入ってくる安定物件となりました。弱点は、強いて言えば減価償却が減ってくることで経費に計上できる部分が少なくなることでしょうか」(谷村社長)
 こうして、同社では築古戸建て、築古アパート、築浅のアパートの3種類を所有するに至った。すべて特徴が違う物件だ。それも、谷村社長の狙いである。「自社で物件を保有することで、オーナーが日々の経営に対してどのような思いを抱くのか。これを知るのも今や会社で不動産経営を行う目的の一つになっています。実際に、大規模修繕工事を行う際も『こんなに費用がかかるのか』『どれくらい賃貸経営にメリットがあるのか』といった不安な気持ちも体験することができて勉強になりました」(谷村社長)

リピーター獲得に注力 17期目で売上を5・7倍に

▲所有する築古戸建て 

 ミツケンは個人事業主として4年間工事の親方を務めていた谷村社長が30歳の時に起業した。現在17期目で、売り上げを順調に伸ばしている。
 法人化した年には職人を7人抱え、売り上げは1億円を達成。現在は社員21人(そのうち職人は10人)で、24年1月期の売り上げは5億7000万円となった。創業時より大きく成長した。今期はさらに業績を伸ばせる見込みで売り上げ目標は8億円だという。
 谷村社長が大切にしているのは、人と人の縁。それが事業を伸ばしてきた。「私が意識しているのはLTV(顧客生涯価値)。顧客の信頼を得て、長期にわたって何度も工事を発注してもらうのです。そのためにも、短期的な会社の利益よりお客さまの利益を優先します。大規模修繕をするかどうか迷っているオーナーには、『今すぐ工事は必要ない』というアドバイスをして、修繕計画を一緒に練ることもあります」(谷村社長)
 顧客に差し出す知恵を身に付けるため、自身も賃貸管理や投資用不動産の経営分析の資格であるCPMやCCIMを取得。説得力も実益もある不動産投資のアドバイスをしている。

本業との相乗効果を加速 業界への恩返しがしたい

▲外壁修繕の様子。丁寧さが売り 

 今後は、築年数や物件種別、構造別にあらゆる種類の物件を購入していこうと考えているという。そこには家主としての興味だけでなく、本業の顧客を理解したいという強い思いがある。「私の職業人生は職人が出発点だったので、物件の目利きはできます。家賃収入のほか、場合によっては売却益も考慮に入れながら、本業も賃貸経営も伸ばしていきたいと考えています」(谷村社長)
 将来に向けては、賃貸経営を行う部門を分社化することも検討しているという。谷村社長は、「本業と不動産賃貸事業で銀行の評価の方法が違ってくると銀行から指摘を受けました。今後物件を増やすうえでは借り入れも重要なので、分社化したほうがいいと思っています」と話す。
 売り上げを伸ばし、会社が成長した暁には、周囲の人や業界に、業界イメージの向上やノウハウの承継という形で恩返しをしていくのが目標だ。

(2024年9月号掲載)

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