【連載】パリの賃貸不動産事情:第5回

賃貸経営不動産投資

パリで不動産の購入を考える

 ボンジュール、坂田夏水です。今回は物件購入の話です。

住宅価格は上昇中

 最近、友人とも「家賃が高いからそろそろ家を買おうかしら」という話をしています。ほかにも「20年前に買った家が3倍の価格になった」という話で盛り上がることもあります。こちらの住宅価格は上昇の一途をたどっており、例えば中心部の物件は、2000年は1㎡あたり3290ユーロ(約53万円)でしたが、24年には12400ユーロ(約198万円)に値上がりしています。パリの住宅は価値が落ちにくい優良な財産として評価されているのです。

▲パリで最高値がつくフュルステンベルグ通りの物件は、1㎡あたり400万円だ 

 街の散歩中に、不動産店舗の店頭で物件情報を見て、「こんな高価な家、買える人がいるのかな」と驚くことがあります。しかし数日後、その物件には「VENDU(ヴァンドュ 売約済み)」と掲示がされていて、超高級物件も動いていることを実感しています。

 高級物件は家具付きで売買されていることが多く、物件写真に見ほれてしまいます。しかし、前回伝えたように、内覧は簡単ではありません。年収や職業などを確認され、物件を買うことが可能な人かどうかの査定後に、ようやく内覧に行くことができるのです。

▲売約済みの看板が掲げられた物件

購入と維持にかかる費用

 さて、パリの不動産を購入する際の費用は、どのくらいになるのでしょうか。

 不動産事業者の売買仲介手数料は、事業者にもよりますが、物件価格の5~10%程度です。彼らが街角に立派な店舗を構えることができるのは、物件の価格と同様に、手数料による利益も大きいからなのでしょう。

 また、不動産事業者への仲介手数料に加えて、日本の司法書士のような存在のNotaries(ノテール 公証人)への費用も必要になります。その費用が物件価格の7%程度かかります。そのほかの不動産取得税や登記税などは、約3%です。物件購入時には初期費用として、最低でも売買価格の15%以上を準備しなくてはなりません。

 一方、忘れてはならないのが、購入後にかかる費用です。管理費、固定資産税、大規模修繕費などがあります。そして、築古物件の修繕費は日本よりもはるかに高いです。
 パリでの不動産投資における表面利回りは、恐らく3%前後だと思われます。

古いゆえに高い修繕費

▲手の届きやすい物件は1階にあることが多い(利回り約3.5%)

 パリの不動産には、一戸建ての「メゾン」と区分所有の「アパルトマン」があります。メゾンは高価で物件数が少ないので、大多数はアパルトマンです。元々は貴族の自宅として建設され、その後フロアや部屋ごとに分譲されて現在に至ります。わが家のアパルトマンは築260年の古い建物ですが、所有者は貴族の後継者で、今はすべて賃貸に出されています。

 日本でも築古の建物のメンテナンスに費用がかかるのは同様ですが、パリでは建物がとても古いので、所有者は建物保全が大変です。頻繁な雨漏りによる屋根の補修、老朽化した給排水管の改修、そして外壁は景観保全のため清掃が法制化されており、10年に1度は工事事業者に依頼し改装し景観を保たなければなりません。入居者から雨漏りやお湯が出ないなどのクレームが入ると、所有者は管理会社を通じて工事事業者を手配します。そのほかに、建物全体の修繕・補修工事なども入るのです。

▲より​_フランスの地方にある城は約2.5億円で購入可能

出所:「Patrice Besse」のサイトより 

 内装の改修は分譲された個人の所有者、共用部の改修はアパルトマンの所有者たちで分担するのですが、実際の請求書を見て驚いたという話はよく聞きます。パリでは工事費用は日本の工 事と比較にならないほど高価なため、入居者や所有者が自ら修繕や改装をする文化があるのだと思います。
 パリで不動産を購入するのは、なかなかハードルが高いです。私は、地方の朽ち果てたシャトー(城)を老後に買って、DIYしながら改装を楽しんでみたいと思っています。

【建材紹介】

「襖(ふすま)紙(がみ)」、なじみのない言葉ですよね。襖紙の歴史は古く、昔の日本の代表的な内装材の一つは、襖紙である和紙でした。昨今は和室の減少とともに襖紙の消費も少なくなっています。私は日本の伝統建材を広め、残すためにパリで店舗を運営していますが、襖紙も畳もパリジェンヌたちに人気です。 「月に鶴 襖紙」で検索してみてください。

夏水組(東京都武蔵野市)
坂田夏水 代表

【プロフィール】1980年生まれ。2004年武蔵野美術大学卒業。アトリエ系設計事務所、工務店、不動産会社勤務を経て、夏水組設立。空間デザインのほか、商品企画のコンサルティングやプロダクトデザイン、インテリアショップ「Decor Interior Tokyo(デコールインテリアトーキョー)」、インターネットショップ「MATERIAL(マテリアル)」の運営などを手がける。22 年よりパリで日本の建材店「BOLANDO(ボランド)」の運営を開始、現在パリ在住。

(2024年9月号掲載)
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