入居者との思い出:シェアハウスのつながり

賃貸経営入居者との関係づくり

人生に悩んだときの支えになる シェアハウスでのつながり

 福岡市の郊外にあるシェアハウス「あまつ風」は、黒岩吉枝オーナー(福岡県春日市)の「昔の下宿のようなコミュニケーションが取れる賃貸住宅を造りたい」との思いから誕生。入居者のターゲットは20~30代の単身者で、外国人も積極的に受け入れている。

 「数年前の入居者だったAさんのことが、とても印象に残っています。彼ほどほかの入居者にポジティブな影響を与えた人は見たことがありません」(黒岩オーナー)

黒岩吉枝オーナー 福岡県春日市

[プロフィール]くろいわ・よしえ
1957年、福岡県生まれ。自宅隣の土地を購入したのを契機に、シェアハウス情報サイト「ひつじ不動産」のシェア住居管理士講座に参加。「コミュニケーションを取ることができる賃貸住宅を運営したい」と考え、2012年4月にシェアハウス「あまつ風」をオープン。1棟9戸を自主管理している。

▲あまつ風には緑豊かな庭があり、イベントなどが開催されている

 Aさんはアクティブな人で、博学、食通でもあった。入居前は仕事でタイに滞在しており、余暇を利用してスキューバダイビングのインストラクター免許も取得。世界各地に人脈があり、さまざまな国の人がよく彼を訪ねてきたという。

 Aさんに大きな影響を受けた、インド人留学生の入居者がいる。彼は哲学的思考の持ち主で、大学の友人との会話は物足りないと言っていた。ところが、Aさんと出会い話を深めるうちに、コーヒーの魅力に取りつかれる。コーヒーについて学ぶ専門学校に入学し、今ではバリスタの勉強をしながら、同級生たちと楽しく過ごしている。

 そんなAさんは、意気投合した酒屋の店主と共にワイン造りの事業を始めた。使用するブドウから作りたいと畑を借り、その近くに住むために退去したが、今でも近況報告のため、黒岩オーナーを訪ねてくるという。

 また、別の入居者であるBさんも、他の入居者の人生を好転させた一人だ。新入社員だった入居者男性が、勤務先が性に合わず、退職したいとBさんに相談した。するとBさんは「やりたいことが決まっていないのなら、ある程度のお金をためてから先のことを考えたほうがいい」と説得。男性は思いとどまり、まずは100万円ためようと懸命に働くことにした。そのうちに仕事が面白くなり、1年後には昇進。今では前向きに仕事に取り組んでいる。

「シェアハウスの入居期間の平均は1年から3年くらいですが、ここで生まれる絆や縁があります。それを入居者がどう生かしていくのか、そして成長や変化をしていくのかを見守れることが、とても面白いと感じています」(黒岩オーナー)

(2024年9月号掲載)

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