Focus 〜この人に聞く〜:登録有形文化財でエリアの価値向上

賃貸経営地域活性

登録有形文化財でエリアの価値向上
心のより所として維持・継承する

 大阪市中央区にある「青山ビル」。築100年超のビルの維持管理と承継は容易なものではない。さらに、同ビルは国登録有形文化財(以下、文化財)に登録されている。通常の不動産より修繕などの制約がかかるため所有者の悩みは多いのだ。そこで2005年に発足した大阪府登録文化財所有者の会(以下、大阪登文会:大阪市)だ。同ビルのオーナーである青山修司事務局長(同)は、文化財の所有者同士がつながり、情報交換を行うことができる場に参加している。

大阪府登録文化財・国登録有形文化財全国所有者の会(大阪市)
青山修司事務局長(50)

――大阪登文会が結成された経緯を教えてください。

 商人文化が発展した大阪では、文化財の個人所有者の多いことが特徴です。個人が古い建物を守らなければならないとなると、悩みは尽きません。「所有者が集まる場が欲しい」という声が大阪で初めて上がったのも自然なことだったと思います。そして、大阪府のアドバイスもあり、有志で立ち上げた大阪登文会。発足時は、個人で文化財を維持・継承していくために、相続や修繕事業者、草刈りなどの日々の管理についての悩みを共有していました。19年には全国組織である国登録有形文化財全国所有者の会もでき、都道府県ごとの組織も年々増えています。

――今では活動が広がりつつあるのですか。

 今、大阪登文会では文化財を巡るスタンプラリーである「御財印」イベントや、能や和菓子作り教室などのイベントの場として文化財を地域に開放する活動に力を入れています。情報交換の枠を超えた企画です。旅行者や地域の人に知ってもらうための取り組みなので、参加者が所有者と直接話したり、歴史上の人物と同じものを食べたり、芸能に至近距離で触れたりなど、身近に感じてもらえることにこだわりを持っています。所有者側にとっても新しい出会いがあると好評です。

――文化財を残すために大切なことは。

 文化財は、補修に制約があるなど維持管理に多くのお金がかかります。その一方で、誰かに守ってもらえるわけではありません。将来国の補助が打ち切られる可能性もゼロではないでしょう。文化財を後世に残すためには、補助金ありきではなく自分たちが行動して建物を守っていく必要があります。イベントなどの活動を通じて、文化財の地域への浸透を図るとともに、少しずつでも収益を上げられるようにしていくことを目指しています。

――なぜ、その地域に文化財が必要だと考えますか。

 文化財は地域のアイデンティティーになると考えます。その地域にしかない特別な場所だからです。皆が誇らしく感じてくれたら、地域の人の心のよりどころになるのではないでしょうか。気持ちの問題だけでなく、文化財はエリア全体の価値向上の起点にもなるでしょう。そして、その場所を愛し訪れてもらうことがエリアのブランディングになる。そんな双方向の関係を築いていくことが今後の目標です。

(五林麻美)

青山修司事務局長プロフィール
神戸大学大学院法学研究科前期博士課程修了後、大阪住宅(大阪市)に入社。本業と共に大阪府登録文化財・国登録有形文化財全国所有者の会の事務局長として、登録文化財の活用と認知向上および所有者と人々の交流の必要性を感じ、「御財印事業」なるイベントを企画し、歴史的建物や文化施設などの「ユニークベニュー(特別な会場)」を積極的に行う。

(2025年 3月号掲載)

一覧に戻る

購読料金プランについて

アクセスランキング

≫ 一覧はこちら