永井ゆかりの刮目相待:3月号掲載

賃貸経営トレンド

連載第90回 物価上昇と家賃

住み替えが減少傾向

 「今年の繁忙期は昨年よりも動きが早いです。年々スタートが早くなっていますね。ただ、困るのは件数が少ないことです」

 こう吐露するのは、1月中旬に会った、都内に事務所を構える賃貸仲介会社の社長だ。その話を聞いて合点がいった。「週刊全国賃貸住宅新聞」では、1月6日号に「賃貸仲介件数ランキング2025」を掲載しているが、上位10社のうち、前年の仲介件数を下回った会社が7社もあるのだ。

 上位10社に限らず、ランキングに掲載されている400社を見ると、都内を主戦場とする会社や、人口減少が顕著な地方都市にある会社が前年よりも件数を減らしていた。特に注目したいのは、都内を中心に仲介件数を増やしてきた会社だ。要因としては、都内の家賃が上昇していることが挙げられるだろう。

 不動産情報サイトを運営するLIFULL(ライフル:東京都千代田区)は、首都圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)のシングル向き賃貸物件、ファミリー向き賃貸物件が共に2024年1~3月の引っ越しシーズンに掲載平均賃料が大きく上昇したと発表した。東京23区では、シングル向き、ファミリー向き共に過去最高賃料を更新したという。家賃が上昇すれば、家計負担が増加するのは明白であり、引っ越し費用も近年上昇していることを考えると、住み替えを控えるのは当然だろう。

 こうした状況により、苦しい経営状況の賃貸仲介会社が増えている。帝国データバンク(東京都港区)によると、住み替えが減少傾向にある賃貸マンションやアパートの仲介・管理を手がける「街の不動産屋」の倒産が急増しているのだという。数字は23年になるが、1年で発生した不動産仲介業の倒産は120件。22年の69件から7割増と大幅に増加したほか、年間の倒産件数として過去最多を更新した。

給料を上げにくい業界 

 物価上昇に伴い、大企業を中心に賃金も上昇している。新卒の新入社員に対して、初任給を30万円以上出すというニュースも流れる。ただ明るいニュースの裏で、まだ賃金上昇ができない中小企業は多くある。賃貸管理会社も非常に厳しい状況だといえる。 

 家賃が上昇しているのは、都内や地方の大都市の一部。賃貸管理収入は家賃が上昇しないと、増やせない。管理収入が増えないと、別の売り上げを伸ばさない限り、従業員の給料を上げられないのだ。その点について、不安を感じる社長は少なくない。不動産賃貸事業を展開するオーナーは個人が多いため、従業員の給料で悩む人は少ないだろう。だが、賃貸住宅を経営していくうえでかかるさまざまなコストは上昇しているため、収益性は悪化してしまう。

 オーナーにできることは何か。家賃を上げても納得して入居してもらえる賃貸住宅を提供すること。そのためには、入居者のニーズを把握し、補助金も利用しながらできる限りコストを抑えてバージョンアップをしていくことが重要なのではないか。

永井ゆかり

Profile:東京都生まれ。日本女子大学卒業後、「亀岡大郎取材班グループ」に入社。リフォーム業界向け新聞、ベンチャー企業向け雑誌などの記者を経て、2003年1月「週刊全国賃貸住宅新聞」の編集デスク就任。翌年取締役に就任。現在「地主と家主」編集長。著書に「生涯現役で稼ぐ!サラリーマン家主入門」(プレジデント社)がある。

(2025年 3月号掲載)

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