転機 ―父から継いだ家業を再生①

賃貸経営ストーリー

赤字ホテルをFC加盟で黒字化 父から継いだ家業を再生

アサノビルは、香川県高松市と神奈川県伊勢原市で、アパホテルのフランチャイズ(FC)店を2店舗経営している。浅野直樹社長は家業の家具会社と独立系ホテルを父親から引き継いだが、ホテル経営においては、FCに加盟するまで赤字を抱え苦労の連続だった。現在は、家具ビジネスはやめて、ホテルFCだけに事業を一本化。「よい波に乗り換えられた」としみじみ語る。

アサノビル(香川県高松市)
浅野直樹社長(64)

 

ホテル2店で年商5億、利益15%

アパホテルがFC事業を開始して間もなく、FC加盟を決めたアサノビル。新型コロナウイルス禍を乗り越えた今、2店のホテルの売り上げは5億円を超えるという。

――アパホテルが、FC事業をスタートした2011年、最初にFC加盟に手を挙げたのは御社だったそうですね。

 当時、香川県高松市で「ビジネスホテル アサノ高松」を経営していましたが、12年7月にFC加盟しました。「アパホテル」にリブランド後は、稼働率と売上が大幅に向上。FC加盟4年目を迎える頃には、隣地に増築棟を建てて、当初60室だった客室を88室まで増室をしました。

――売上は現在どのくらい増えましたか。

 年商はリブランド前の3倍以上になりました。おかげさまで連日ほぼ満室状態です。以前よりの常連様から「いつ電話しても予約が取れない。どうなっているのだ、お前のホテルは!」と怒られることがあるほどです。

――18年3月から神奈川県伊勢原市でも同じアパホテルのFC店を経営しているそうですね。

 伊勢原店は賃貸物件を借り上げて運営していますが、部屋数は高松店より多く、年商は約3億円。2店舗合わせると、直近の売上はおよそ5億2000万円になります。

――利益面ではいかがですか。

売上高営業利益率で15%くらいになります。経常利益で8000万円くらいです。一般的な商売ですと、仕入れに伴う変動費が絶対に発生します。そのため利益がそこまで出ませんが、ホテルは稼働率が高いほど利益につながりますから。

――運営スタッフは何人ぐらいでしょう。

 伊勢原店でアルバイトも含めてフロントが約13人。高松店も同じような人数です。清掃業務を自社で行っているため、そのスタッフを含めると2店舗で全従業員は80人ほどになります。伊勢原店では、近々24歳の女性社員が入社してくれるのです。新宿や渋谷のような都心部まで通勤するのを敬遠する地元志向の若者もいるようで、郊外にあってもそういう人たちがこの職場を選んでくれています。制服もかわいらしいですし、FCに入って採用も楽ですね。

――アパホテルのFC加盟ホテルは、現時点で70棟9543室30法人。御社のように2店舗以上経営している会社は10社ほどあるそうですね。

 FC加盟している仲間内で話していると、まだ1店舗しか経営していないオーナーは2店舗目を、2店舗を経営しているオーナーは、さらに3店舗目を展開したいと言っていますね。

空室に苦しんだ末、FC加盟を決断

浅野社長の父親は高松市で家具の製造・販売事業を立ち上げた。そして、その事業の成功を受けて地元でビジネスホテルをオープンしたが、長年の間、赤字続きだったという。                                                                                 

――御社はもともと家具事業からスタートされたそうですね。

 父の出身地が香川県高松市です。高松といえば、江戸時代から高松藩松平家のお殿様がいた場所ということもあり、香川漆器が発展してきました。父が、その漆塗りの技術を施した漆家具を販売したのが家業の始まりです。

――家具の会社がホテル事業に乗り出したきっかけは。

 家具の事業がうまくいったこともあり、父は故郷に錦を飾るような気持ちで、1988年10月、高松市内の瓦町駅前に全60室の「ビジネスホテル アサノ高松」を開業しました。東京で例えるならば、JR高松駅が東京駅で、ホテルの位置する瓦町は新宿や池袋といった繁華街です。ここにビジネスホテルを造れば需要があるとわかっていたのだと思います。ちょうど同年の4月に瀬戸大橋が開通し、観光客が増えるのではないかという読みもあったのかもしれません。

――稼働状況はどうだったのでしょうか。

 1泊7000~8000円と当時にしては高い価格設定だったにもかかわらず、開業してから数年間は毎日満室になるくらい調子が良かったようですね。 当時はまだ周辺にビジネスホテル自体が少なかったのです。高松はしかし、さすが県庁所在地だけあって、ビジネスホテルチェーン店の競合が一つずつ増えてくるわけです。スーパーホテル、ドーミーイン…と一つ新しいホテルがオープンするたびに当社のホテルに宿泊するお客様が減っていきました。最終的に、駅前には名の知れたホテルチェーン店はすべてあるような状態に。まわりがホテルの見本市会場みたいになってしまいました。

――当時、浅野社長はホテル経営にも関わっていたのですか。

 私は東京生まれの東京育ちで、学校卒業後すぐ父の会社に入社しました。父はある時からホテル事業に専念して高松へ行ってしまったので、私はそのまま神奈川県の新百合ヶ丘駅にある事務所に残って、家具の事業を引き受けていました。父がガンで他界したのは2011年でしたか。その亡くなる4、5年前に、父は東京に戻って闘病生活を送っていました。そのころからホテル事業もあわせて長男である私が引き継ぎました。高松のホテルには支配人を配置し、私がだいたい月に1回出かけて経営状況を見ていました。

――ホテルの経営はいつごろから厳しくなっていたのでしょう。

 競合の影響が大きく、07年くらいからすでに売上が苦しくなっていました。リーマンショックの後には、相当厳しい状況でしたね。常連のお客様がいたため、売上がいきなりドンと落ちるようなことはありませんでしたが、真綿で首を絞められるような感じでした。最終的に、12年の春にダイワロイネットホテルがすぐ近くにできるというのを聞いて、「これはもうダメだ」となってしまったのです。

――開業から20年も経つと設備の老朽化も目立ってきますよね。

 競合ホテルの台頭に苦戦しているタイミングで、ボイラーをはじめさまざまな設備の更新時期も重なりました。設備の入れ替えに3~4000万円かかる計算でした。仮に今ここで、その金額で設備投資をして経営を続けたところで、回収できるのだろうかと考えてしまったのです。売上も良くない上に、遠隔での経営でしたし。いっそのこと売ってしまおうかという思いが頭をよぎりました。

▲アパホテルの集客力の違いを感じた高松店

――具体的にはどのような経営状態でしたか。

 5年ほどずっと毎月50万円ほどの営業赤字を出していました。ただその頃は家具の事業が好調でしたので、そちらから補填しているような状況。当時まだ建在だった父も、「やはりホテルは経営するものじゃない。泊まりに行くところだ」とよく言っていましたね。

――かなり厳しかったのですね。

 稼働率は55%ぐらいでした。開業当初は7000~8000円だった客室単価も、最終的には5000円ほどにまで落ちていました。

――それでFC加盟をされたのですか。

 最初はアパホテルのパートナーホテルとして提携しました。ホテル名は「ビジネスホテル アサノ高松」のまま、改修も一切なし。アパホテル独自の予約サイトから、集客だけをしてもらうような運営からスタートしました。結果として確かに集客は良くなりましたが、一気に増加したというよりは、ぼちぼち増えてきたね…といった感じでした。

――その後結局、FC店に加盟されたわけですが、決断に踏み切った理由は。

 思い切って「アパホテル」という名前に変われば、集客もさらに大幅に増加して、もしかしたらボイラーの資金ぐらいは捻出できるようになるかもしれないと思ったのです。ただ、当時はすごく儲かるというよりは、設備投資した金額がなんとか回収できるくらいには持ち直すのではないかと考えていました。

――結局、大切なのは集客力ですよね。

 その後、アパグループの元谷外志雄会長と一席設けていただきまして、その時に「浅野さんのホテルもちゃんとやっていると思うけれど、お客様はホテルの名前を知らないから。今の時代、インターネットで検索のしようがないホテルは選ばれないよ」と言われてしまいました。やはり知らない土地に行くのに、お客様は知っている名前のホテルのほうが安心だということです。そう言われてしまうと確かにそうだなと。それに、毎週のように担当者が当社まで来てくれて、とても熱心に誘ってもらいました。当社のような弱小企業はそのうち見向きもされなくなる。「こうやって請われているうちが花だ!」と思い、FC加盟を決断しました。

――とはいっても、やはり父親が始めた浅野家の「ビジネスホテル アサノ高松」。リブランドすることに迷いはあったと思います。

 そうですね…おそらく父が生きていたらやっていなかったでしょうね。父は高松でほかにも何棟かホテルを所有していましたが、息子たちに「負」動産は残したくないと、ガンが発覚してからすべて売ってしまいました。しかし今残っているホテルだけは、思い入れがあったのでしょうね。「ちょっと大きめのアパートを経営していると思って、これだけは残してほしい」と言って亡くなりました。ですから売却せずにFC加盟を選択。確かに名前は変わりましたが、潰すことなく残すことができたのは良かったと思っています。

(2025年 5月号掲載)
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