安価な戸建て中心に多拠点展開 外国人向けに築古でも安定経営
松本朋生オーナー(川崎市)は、これまで10年間で着実に所有物件を増やしてきた。現在、個人・法人を合わせて30棟58戸の賃貸物件を所有している。
賃貸経営を始めたのは2015年、松本オーナーが36歳の時だ。当時薬剤師として働きながら、休日診療の対応や「せどり」といった副業をしており、不動産経営も副業の一つとして開始した。
松本朋生オーナー(46)(川崎市)

初めは住まいに近い川崎市で区分マンションを購入。その後は神奈川県内や埼玉県で築30年以上の中古木造アパートなどを個人で買い進め、3年半後には区分マンション2戸、アパート4棟20戸を持つオーナーになった。区分マンションでは比較的都心に近い40㎡以上の物件を選び、オーナーチェンジで購入した物件は退去後にリフォームして売却。空室で購入した物件はリフォームを行い、入居後に共同担保として一棟購入時の自己資金の代わりに利用した。
経営拡大に伴い他拠点経営開始
賃貸経営が順調に拡大したことで、17年に法人化。18年にはリフォームの勉強を目的に最初の戸建て物件を手に入れた。そんな折、インターネットなどで物件を探す中で見つけたのが三重県四日市市の中古物件だ。
川崎の自宅や、勤務地である東京からは離れた、全く知らない土地の物件だった。しかし、不動産経営の知見がある知人に下見を依頼し、物件を確認してもらうことができた。築年数は50年近いが、木造で中古である分、キャッシュで購入可能な金額だった。報告を受け、経営可能だと判断すると、自分でも内見に訪れ購入を決めた。
「この物件の購入により、私が地理的な遠さを気にしないことが伝わり、仲介会社から紹介してもらう物件のレパートリーが増えました。関東だけでなく、関西や中部地方の物件も紹介されるようになったのです」(松本オーナー)
ちょうどこの頃、スルガ銀行(静岡県沼津市)の不正融資問題の余波を受け、アパートローン審査が厳しくなった。そこで、手持ちの現金で購入できる中古戸建て物件に投資対象を変更していったという。購入資金には、不動産経営で得た利益を充てた。
「会社勤めで十分な給料をもらっていたうえに、ほかの副業収入もあって『不動産投資での利益は不動産投資に使う』ということができていました」(松本オーナー)
その後も売却益や運用利益を生かしながら、ほとんど現金で築古の戸建て物件を購入し続けた。三重県、愛知県、そして大阪府、関東でも千葉県、茨城県、栃木県にも手を広げ、10年間で58戸を所有するまでに事業規模を拡大している。

とにかく安い物件に需要
戸建て物件経営を始めた当初は、購入額とリフォーム費用を合わせて利回り18~20%を基準にしていた。現在では、短いリフォーム期間ですぐに貸し出せる、状態のいい物件であれば、15%程度の利回りでも許容することにしている。
所有物件は個人・法人を合わせて最も新しい物件が築17年、最も古いものは築70年を迎え、平均でも40年を超す。経営の軸となるのは、築古の戸建て賃貸。とにかく安く広い家に住みたい人をターゲットにすることで、需要を確保しているという。メインの入居者となるのは外国人だ。明らかに外装が剥がれているような場合を除けば、ほとんど改修を行わずに貸し出しているが、問題ないという。
「日本人が見るとびっくりするような物件でも、できる限り安く、複数人で使える広い家に住みたいという需要が外国人にはあります」(松本オーナー)

▲松本オーナーが所有する戸建て物件
こうした需要に気付くきっかけとなったのが、19年に茨城県で購入したある物件だった。築年数は当時すでに50年近く、仲介会社には「この状態では借り手が見つからない」と言われたが、自身で入居者を探したところ、外国人の入居希望者が見つかったのだという。客付けには地域情報サイト「ジモティー」を利用した。
その後も、仲介会社が二の足を踏んだ物件にはジモティーで入居希望者を探す方法を続けていった。次第に、外国人の入居者や知り合いから口コミが広まり、紹介で入居が決まるようになったという。
これらの物件は、和室も古い畳のままで貸し出している。入居者は室内でも靴を履いて生活するため、日本人向けの住宅と比較して、畳を張り替える必要性が低い。
またこのような物件ではリフォーム費用をかけない代わりに、1カ月のフリーレント付きで貸し出しを行う。その期間に見つかった不具合に関しては無償で対応し、納得したうえで借りてもらう方法をとっている。
賃料は2階建てのファミリー向け物件でも4万円~4万2000円程度だが、購入額が安く、リフォームもほとんど行わないために十分利益が出る。
安価な外国人向け賃貸というと、賃料の未払いなどのトラブルを想像する。しかし、松本オーナーによると「日本人よりも未払いが少ないくらい」だという。「2、3日支払いが遅れてしまう」と謝罪の連絡が入ることもあるが、最終的には支払われる場合が多い。支払いが遅れても、保証会社と契約しているため松本オーナーに損失はない。
仕入れ先は紹介が中心
松本オーナーは、24年にこれまで勤めていた会社を退職。現在、賃貸経営のほか、複数の事業に出資・参加している。
現在では、仲介会社だけでなく、付き合いのあるリフォーム会社からの提案で仕入れを行うことが多い。リフォームを終え、客付けができて落ち着いた頃合いに物件の購入を持ちかけられるサイクルが続いている。古い物件でも、以前の取引で信頼できると判断した事業者から購入することで損失を避けられる。

▲古い間取りの物件にも需要がある
松本オーナーは「古い物件は把握し切れない不具合がある場合も多く、付き合いの浅い相手には売りたくないという仲介会社もあります。その点で、私は『不具合はあるもの』と割り切っているので、声がかかることも多いのです」と語る。
順調に物件を増やしてきた背景には、協力事業者との信頼関係がある。客付けに口コミの効果が大きいこともあり、松本オーナーは「縁に恵まれて成り立っている事業だと思います」と話す。
(2025年 5月号掲載)
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