入居者との思い出:キャリアカウンセリング付き物件

賃貸経営入居者との関係づくり

入居者からの就活相談を機に誕生 キャリアカウンセリング付き物件

 井上敬仁オーナー(神奈川県二宮町)は、所有するアパートを「キャリアカウンセリング付き物件」として貸し出し、家賃アップを実現している。きっかけは、物件に住む学生から就職に関する相談を受けたことだった。

井上敬仁オーナー(58)神奈川県二宮町

[プロフィール]いのうえ・たかひと
1967年、宮崎市生まれ。92年より自動車メーカーで設計・開発業務に従事。2004年から兼業でアパート経営を始め、16年に専業家主となる。20年、就職活動支援などを行う、未来人材キャリア開発を設立。現在アパート5棟49戸を所有。

▲神奈川県平塚市にあるアパートの外観

 2018年2月、所有物件の入居者だった大学生のAさんから、深夜の物音で困っているという連絡を受けた。上階への状況確認後、Aさんに報告した。話を終えたとき、「ところで大家さんは、どんな仕事をしているのですか」と聞かれたという。

 Aさんは当時大学2年生。2カ月後には3年生となり、就職活動が始まるところだった。しかし、自分は何が好きなのか、どんなことをしたいのかがわからず悩んでいたのだ。

 翌日、井上オーナーはAさんを食事に誘った。Aさんは石川県出身で、大学生になって初めて県外に出たが、離れてみて地元の良さがよくわかったという。「地元で大工として経験を積み、いまは建設会社を経営する父親をとても尊敬している。同じく地元で漁師として活躍する友人も生き生きとしていた」と話してくれた。

 「地元のことをたくさん話しているね」と井上オーナーが指摘すると、Aさんは「確かに。自分がこんなに地元のことが好きだったとは思いませんでした」と驚いた様子だった。さらにFP(ファイナンシャルプランナー)の資格が気になっているというので、井上オーナーは「資産形成に興味があるのなら、FPに挑戦してみるのもいいかもしれないね」とアドバイスした。

 それからしばらくして、AさんはFPの資格を取得。地元の証券会社に内定し、両親も喜んでいると報告に来てくれた。

 「私と話したことが彼の人生に多少なりとも役立ったことに、うれしさや充実感を覚えました」と井上オーナーは話す。

 5棟のアパートの入居者は全員が東海大学の学生だ。就職活動や進路に対する不安は、学生なら誰にでもある。入居者をサポートしたら、物件の付加価値になるかもしれない。そう思った井上オーナーは、学生の就職支援をするために国家資格であるキャリアコンサルタントを取得。現在、所有するすべての物件で、資格を生かした就職活動支援を行っている。

(2025年 5月号掲載)

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