第46回 変わりゆく損保業界のスタンスについて考える⑥
保険契約の引き受け制限④
自然災害による被害だけでなく、賃貸物件が犯罪被害に巻き込まれることもないわけではありません。
放火や空き巣狙いなどは、従来、都市部を中心に発生している代表的な犯罪被害です。これらに対しては火災報知器、自動消火設備、オートロック、防犯カメラ、セキュリティーシステムなどの防火・防犯設備の普及や導入が進んだことにより、一定の防止・抑止効果が働いているといえます。
ところが昨今、凶悪犯罪とも言うべき強盗、略奪、破壊行為など、市民生活を脅かす事件が各地で発生しています。これら凶悪犯罪のターゲットになりやすいのは、不動産賃貸事業から派生した各種の収益事業です。
このような事件の増加が、損害保険契約の引き受けに悪影響を及ぼしています。
コインランドリー荒らし多発により損害率が悪化
コインランドリーは、基本的に無人店舗であるため、近年深夜を中心に売上金狙いの強盗被害に遭う事件が多くなっています。防犯カメラやセキュリティーシステムの導入は進みつつありますが、いつでも誰でも気軽に入店して利用できるという性質上、犯罪者に狙われやすいのです。
しかも現金を盗まれるだけでなく、高額な機械も破壊されるため、これらの損害も深刻です。店舗内が荒らされたことによって、営業ができない期間が長期に及べば、休業損害も発生します。
よって火災保険だけでなく、店舗休業保険や休業損害補償特約の職業割増も値上げされ、免責金額の引き上げも行われる傾向にあります。保険期間は1年までとなっている保険会社も多く、事故が多発すると次回の契約を引き受けられないという事態もあり得るのです。
実際に何度も被害に遭ったことで保険の引き受けが謝絶されたため、その場所での事業撤退を余儀なくされた例もあります。人通りや車の交通量が少ない場所の物件が被害に遭いやすい傾向にあることから、そのような立地の店舗物件での開業は難しくなっているのかもしれません。
インバウンドの増加で民泊物件が急増
新型コロナウイルス下における行動制限や自主規制が解除されて以降、インバウンド(訪日外国人)が急増しました。これに伴い、全国各地にさまざまな宿泊施設が新設されています。
この特需に対応すべく、不動産賃貸事業を営む人が宿泊事業に進出する傾向が見られます。しかしながら、旅館業の許可を取得してホテルや旅館などを開業するのは、なかなかハードルが高いことです。そのため、アパートや一戸建てを転用して手軽に開業できる民泊を始める動きが活発になっています。
すでに所有している賃貸物件を民泊に転用する場合、それまでかけていた住宅用の火災保険がそのまま使用できるわけではありません。
住宅の姿をしていても、民泊はあくまでも「宿泊施設」です。すべてが宿泊に使用される物件であれば、事業用火災保険商品に契約し直さなければなりません。その場合、保険期間は最長1年となるので、毎年契約の更新が必要です。
そして事故が1年間で複数回発生した場合には、次年度の契約更新ができないこともあります。
インバウンドを受け入れることが多いとされる民泊では、宿泊者の文化の違いから思わぬ破損・汚損事故が発生しています。免責金額を高めに設定することで、少額の保険金請求は見送るなどの工夫が必要でしょう。
民泊経営には必須、二つの「賠償責任保険」
ホテル、旅館、簡易宿所、民泊などの宿泊施設には、施設賠償責任保険をかけることができないルールとなっているため、代わりに旅館賠償責任保険を契約します。
併せて、旅館宿泊者賠償責任保険にも加入する必要があります。これは原則として、旅館賠償責任保険とセットで契約します。
どちらも1年契約のみの取り扱いのため、事故多発によって翌年の契約の引き受けが謝絶されることのないよう、火災保険と同様、事故防止に努めることが大切です。

【解説】
保険ヴィレッジ 代表取締役 斎藤慎治氏

1965年7月16日生まれ。東京都北区出身。大家さん専門保険コーディネーター。家主。93年3月、大手損害保険会社を退社後、保険代理店を創業。2001年8月、保険ヴィレッジ設立、代表取締役に就任。10年、「大家さん専門保険コーディネーター」としてのコンサルティング事業を本格的に開始。
(2025年 6月号掲載)
アクセスランキング
- 【特集】屋上防水のタイミングと見積もりチェック①
- Regeneration ~建物再生物語~:わかめ加工場が大人の宿に
- 【特集】次世代に資産をつなぐ 生前贈与の正しい活用法:①生前贈与の基本
- 注目の新築 プロジェクト:デザイン性と収納力で差別化
- 【特集】非住宅ではじめる 遊休地活用ビジネス第九弾①
- 注目の新築プロジェクト:植栽付きバルコニーとドッグラン
- Regeneration ~建物再生物語~:築90年の日本家屋
- 【PR・特集】相続で 困ったときに頼りになる 専⾨家・サービス①
- Regeneration ~建物再生物語~:既存不適格建築物を店舗併用住宅に再生
- 【特集】非住宅ではじめる 遊休地活用ビジネス第六弾:①
- Regeneration ~建物再生物語~:築古アパートをシェアハウスに改修
- 【特集】持ち味発揮 共用部を変えた家主の工夫①:エントランス
- 【特集】押さえておきたい不動産の共有リスクと解消法①
- Regeneration ~建物再生物語~:アトリエ付き住宅へリノベして受賞
- 【特集】古くなったら避けられない 大規模修繕の基礎知識①
- 【特集】24年のカギを握る入居者を引き付ける設備9選
- Regeneration~建物再生物語~:魚屋を複合施設へリノベ
- 【特集】基本を知れば怖くない 税務調査への 対応策:①税務調査概要編
- 【特集】時代に乗り遅れるな今こそ省エネ化①:省エネ賃貸住宅の夜明け
- 【特集】不動産購入で伝来の土地を守る
- 地名・土地の名前の由来 その隠された意味とは?
- 地主・土地持ちはずるいvs大変?地主になるにはどうやってなる?
- 武家屋敷(大名屋敷・江戸屋敷)の特徴とは? 跡地に建つ有名施設
- 大家さんとは? 不動産の大家さんになるには
- ランドセット(売り建て住宅)とは メリットデメリット