INTERVIEW 不動産市場で光るプレーヤー：職人マッチングサイト運営

原状回復費を削減する職人マッチングサイト

設備費や建築費の高騰により、家主にとってリフォームや原状回復にかかる費用の負担が大きくなっている。そんな家主の救世主となり得るのが家主と職人をマッチングする「職人ダイレクト」だ。同サービスを運営するキタムラコーポレーション（さいたま市）の北村政義社長に開発経緯やサービス内容について聞いた。

キタムラコーポレーション（さいたま市）
北村政義社長（52）

工事費を安くする直発注

　職人ダイレクトは、家主と職人の直接取引を可能にするマッチングサービスだ。登録すると家主は、原状回復に関わるクロスの貼り替え、クリーニングなどの施工を、直接職人に発注することができる。２０２４年にスタートして、２５年３月末時点で会員は家主が約５００人、職人が約２２０人となっている。

▲職人ダイレクトのトップページ

　家主はエリアや価格、ユーザーからの評価を考慮して依頼する職人を選び、業務を発注する。サービスの利用登録料は、家主は無料、職人は月額８８００円（税込み）だ。

「職人ダイレクトの利用は、家主にとっては原状回復コストの削減につながります。クロスの貼り替えであれば、相場より２～３割ほど価格が安くなると予想しています。一方で職人にとっても、リフォーム会社や管理会社を通して受注する際に発生していた中間マージンが不要になるうえ、自身の都合に応じて受注時期を調整できるという利点があります」

　こうメリットを話す北村社長自身も実は賃貸住宅を１１３戸所有する家主で、自分が欲しいサービスをつくった人なのだ。

工事発注の裏側に驚き

　北村社長が職人ダイレクトを始めた理由は、不動産会社に勤めていた時に抱いた違和感だった。

　０７年に不動産会社に転職した北村社長は「家主は管理会社からこんなふうに思われていたのか」と衝撃を受けたという。当時、所有物件数５棟４４戸、月間キャッシュフロー１２４万円だった北村社長は、自身の賃貸経営に役立つと思い、前職の製薬会社とは全く異なる不動産業界へ入った。転職して感じたのは、家主をよく思う従業員が少なかったことだ。

　社内から聞こえてくるのは「あの家主はケチだ」「この家主は細かくてうるさい」「相見積もりなんて面倒だから取りたくない」という不満。そのうえ、自社の利益のために、募集時に物件の情報を抱え込むケースが多かったり、リフォーム工事を行うときにリフォーム会社の見積もりに３０％の利益を上乗せし家主に提示していたりと、家主にとってはマイナスになることも多数行われていた。「こんな家主の気持ちが全くわからない不動産会社には絶対に管理を依頼したくない」。当時、北村社長は強く思ったという。

　そこで着目したのが、リフォームコストを削減するビジネスだった。０９年にキタムラコーポレーションを設立し、冒頭で紹介した職人ダイレクトの前に、原状回復工事を直接発注できるサイト「大家さんの内装屋」を始めた。
　大家さんの内装屋では、管理会社や家主が空室の原状回復工事を１戸から発注することができる。利用者が同サイトから問い合わせると、職人が訪問して無料で見積もりを実施。利用者が納得すれば正式に発注となる。

▲大家さんの内装屋のトップページ

　発注できる作業は壁紙やクロスの貼り替え、畳の交換、ハウスクリーニングなど。利用者の割合は、賃貸住宅オーナーが５割、管理会社が３割。残りは自宅の内装リフォームの依頼などだ。

　クロスの貼り替えであれば、材料や工賃、残材処分なども含めて１ｍあたり１０２１円(税込み)からという価格の安さが特長。クロスや壁紙の種類を絞ることや、同社が業務提携している職人に、直接作業を委託することで人件費を削減し、低価格を実現している。対応エリアは東京都や埼玉県を中心とする１３都県の一部地域だ。

　０９年に始めた大家さんの内装屋は、受注数が順調に推移し、売上高は年間約１億５０００万円に上る。

全国で対応できるサービス

　２４年に職人ダイレクトを開発したのは、営業エリアの拡大が主な狙いだった。大家さんの内装屋では、同社が元請けになるため、エリアを全国に拡大することが難しかったという。その点、職人ダイレクトはウェブ上で完結するマッチングサービスであるため、全国どこでも対応が可能だ。

　「職人不足といわれながら、安定して仕事を受注できない職人はいる。今後も賃貸住宅オーナーまたは管理会社と職人双方が利益を得られるサービスを提供していきたい」（北村社長）

　直接工事を発注したことがない家主でも利用しやすいように、分離発注の方法や進行手順などの解説ガイドを作ることで同サービスを広めていく考えだ。
（2025年 6月号掲載）