入居者との思い出:大澤俊信オーナー

賃貸経営入居者との関係づくり

こだわりの詰まったエコアパート 少年の将来を考えるきっかけに 大澤俊信オーナー

大澤俊信オーナー(68)北海道当別町

[プロフィール]おおさわ・としのぶ
1955年、北海道当別町生まれ。大澤産業代表取締役。大学卒業後は東京で会社員をしていたが、アパート経営者だった父親の病を機に北海道に帰り、自らエコアパートを2棟建設。現在、父が建てたものを含めた5棟28戸に加え、カフェとシェアハウス4戸を所有・管理している。

 

 大澤俊信オーナー(北海道当別町)が自然との共生や、環境へ配慮したエコアパート「かたくりの里とうべつ『空』」を建てたのは2014年。17年には2棟目の「宙」を竣工し、計8戸のエコアパートを経営している。

 各戸専用の菜園、共用のハーブガーデンのあるエコアパート。伝統工法で建てられた、各戸2LDKのメゾネットタイプだ。建材はすべて北海道産の無垢材を使用しており、室内に入ると木の香りが漂う。全住戸には雨水貯水タンクを完備。暖房はペレットストーブを採用しており、輻射熱による気持ちのいい暖かさで家計にも優しい。

 9年ほど前、このアパートに中学1年生と小学5年生の息子を持つシングルマザーのA氏が札幌から転居してきた。 A氏は食にこだわりのある女性で、札幌に住んでいるときから冷蔵庫を使わない食生活をしていた。パンやみそなど、自分で発酵食品を作っており、「大澤さん、このアパートにはとてもいい『気』があるわ。発酵が順調に進みます」とアパートの環境を非常に気に入り、喜んでいた。

 さらにA氏は菜園やハーブガーデンで野菜やハーブを育て、近隣住民にお裾分けして交流を楽しんでいたという。A氏だけでなく、入居者同士が菜園で作った野菜の交換をしており、大切なコミュニケーションの場にもなっていた。

 A氏一家が交流したのは近隣住民だけではなかった。実はこのエコアパートは、大工になった大澤オーナーの息子が、入社した武部建設(北海道岩見沢市)で、同僚の手を借りながら建てたものだった。A氏の長男は「大工ってどんな仕事?」と大澤オーナーの息子に熱心に質問しており、2人が会話しているのをよく見かけたという。

 「3年後、その少年は遠方の高校へ進学することになり、A氏一家は退去しました。ところが数年後、彼が『武部建設に入社しました』と報告の電話をくれたのです。うれしかったですね」と大澤オーナーは語る。

 木のぬくもりに包まれたエコアパートでの暮らしと、大澤オーナーの息子との交流が、少年を大工という仕事に導いたのかもしれない。

▲交流の場でもある菜園とハーブガーデン ▲暖房にはペレットストーブを採用

 

 

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