賃貸経営の環境変化で保険はどう変わる?⑥
超高齢社会の到来に備える保険①
総務省統計局の人口推計によると、2023年5月1日時点の日本の総人口は1億2448万人、そのうち65歳以上の人口は3621万人で、総人口に占める割合(高齢化率)は29・1%です。
さらに75歳以上の人口は1982万人で、総人口に占める割合は15・9%にまで達しています。
総人口が前年比で60万人減少しているにもかかわらず、75歳以上の人口は76万1000人増加しています。
そして団塊の世代が75歳以上となる25年には、この割合が急激に上昇すると言われています。つまり、超高齢社会の到来が目前に迫っているのです。
総人口が減少する一方で、高齢者の割合がますます増え続けているわけですが、この状況が賃貸経営に大きな影響を及ぼすことはいうまでもありません。
そこで今回は、これから賃貸住宅が直面する超高齢社会によって変わりゆくリスクについて、深掘りしてみたいと思います。
超高齢社会で変わる賃貸経営のスタイル
賃貸経営を営む者からすれば、入居者はなるべく若年者が望ましいと考えるのは当然のことです。しかしながら、超高齢社会においては、その若年層の割合も人数も少なくなっていくわけですから、新規募集時の年齢制限を緩和しなければならないときが来るのかもしれません。
空室が出にくい優良物件でも、入居者は確実に年を取っていくので、どんな物件であってももはや無関係では済まされないのです。
これまで高齢者向け賃貸住宅の受け皿的な存在は独立行政法人都市再生機構(UR都市機構:横浜市)が担ってきましたが、民間賃貸住宅でもこの問題に向き合っていかなければならない時期が、確実に近づいてきているのではないでしょうか。
増加する独居世帯高まる二つのリスク
今後、賃貸住宅の家主が抱える問題は、入居者の高齢化だけではありません。
50歳までに一度も結婚をしたことがない人の割合を示す「生涯未婚率」の割合が、20年の国勢調査では男性28・25%、女性17・85%にも上りました。
実に男性のおよそ3・5人に1人、女性のおよそ5・6人に1人が、生涯未婚のままで独居生活をしている可能性が高いのです。このまま高齢化が進めば、賃貸住宅の入居者も独居高齢者の割合が高くなってしまうかもしれません。そうなれば、「孤独死」の発生という問題は、決して避けては通れない賃貸業界全体の問題であるといわざるを得ません。
実は孤独死は、働き盛りの40~50代でも多く発生しています。
また、この世代は「自殺」のリスクも高いといわれており、社会からの孤立・孤独がその要因だとされています。
孤独死・自殺が発生想定される損害
では実際に賃貸物件で孤独死・自殺が発生した場合、どのような損害が発生するのか、実際にあった例を紹介しましょう。
孤独死・自殺が発生すると・・・
・誰にも発見されずに居室内で死亡。発見までに数日を要したため遺体の腐敗が進み、室内を汚損した。
→原状回復費用約90万円
・腐敗とともに異臭が立ち込め、消毒および脱臭施工が必要となった。
→消毒・脱臭施工費用約30万円
・故人の家財を遺族が引き取らなかった。
→遺品整理費用、訴訟費用、弁護士費用、おはらい費用などで約180万円
・いわゆる「事故物件」となったため、次の入居者が決まるまでに9カ月もの時間を要した。しかも家賃が大幅にダウン。
→家賃の減少額約80万円
孤独死・自殺の発生によって生じる、このような損害を補償する各種保険については、次号で詳しく解説したいと思います。
解説:保険ヴィレッジ 代表取締役 斎藤慎治氏
1965年7月16日生まれ。東京都北区出身。大家さん専門保険コーディネーター。家主。93年3月、大手損害保険会社を退社後、保険代理店を創業。2001年8月、保険ヴィレッジ設立、代表取締役に就任。10年、「大家さん専門保険コーディネーター」としてのコンサルティング事業を本格的に開始。
(2024年2月号掲載)
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【連載】転ばぬ先の保険の知識:3号掲載
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【連載】転ばぬ先の保険の知識:1月号掲載
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