ホームレスらの凍死がきっかけ
刑務所出所者の心と生活を支える
県内に220戸を所有する長谷川桂一オーナー(新潟市)。賃貸経営を始めたきっかけは、2000年当時に勤めていた銀行での社会調査だった。「福祉には全く興味がなかったのですが、その活動を通してホームレスの窮状を知りました。行政が、市内の駅にホームレスが住めないようにした年、冬に十数人が凍死してしまったのです」と長谷川オーナーは振り返る。
その後福祉に関わって、炊き出しや夜回りをする人と親交を深めていくうちに、自分に与えられた役割は、家を準備することだと思った長谷川オーナー。住居に困っている人に住む場所を用意したいと思うようになった。
そこからは早かった。銀行勤めの経験から不動産を購入するうえでの不安もなく、融資の仕組みも知っていた。最初に買ったのが6戸のアパートだったという。
築20年で1800万円ほど。お買い得な物件ではなかったが、当時は本業も忙しく探す時間もなかったため、融資を受けられて、ある程度利益を出せればいいという考えで、急いで取得した。その後も、戸数が足りなくなると購入し、それを繰り返すうちに、物件をどんどん増やすことができた。
今は銀行を辞め、事業コンサルティングの仕事で日本だけでなく世界中を飛び回る長谷川オーナーだが、それでも以前より自由な時間があるので、入居者と積極的に関わっている。
身元引受人になって 生活プランを立てる
最近関わりが多いのが、刑務所出所者だ。「生活保護受給者の課題は金銭的な問題だけのことが多いですが、出所者ではそうはいきません」(長谷川オーナー)。入居しても50%程度の人が再犯してしまうのだという。
長谷川オーナーはこういった事態を防ぐために、入居者と一緒にハローワーク(公共職業安定所)に出向いて仕事を探す。就職後も「何が食べたい?」と定期的に食事に誘って様子を聞いている。というのも、出所者の場合、生活が崩れてくるパターンがある程度決まっているので、悩みを吐き出してもらうのが有効だからだ。「職場でひどい扱いをされる、なぜか犯罪歴がばれて奇異な目で見られる、体力が必要な仕事をする場合のけがのリスク。そういったストレスで酒、万引き、病気と、悪い方向に進んでいくのです」(長谷川オーナー)
手のかかる入居者は40人ほどおり、しょっちゅう逮捕されてしまうので、警察や拘置所へ面会に行くことも多い。刑務所で暮らすうえでの不安に寄り添い、本人が望めば身元引受人になって、保護司や保護観察官と共に生活プランを立てていく。身元引受人になるときは、自身が生きている間は面倒を見続けるという覚悟が必要だ。
「どんな相手であれ、人と関わることは勉強になります。人生の先輩も多いですし。今、その人が置かれている状況が過酷だとしても、100%自己責任だとはいえないと思うのです。自分が人を救っているとは思っていません。少しでも役に立つことができればという気持ちで、生活を整える手伝いをしています」(長谷川オーナー)
長谷川桂一オーナー(54)(新潟市)
(2024年2月号掲載)
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