賃貸経営に必要な生命保険を考える④
非課税財産を確保する終身保険を学ぶ②
相続税が課されない資産を確実に形成することができる終身保険。このような性質を持っている唯一の金融商品であるため、生命保険各社は、時代の背景、運用環境に合わせて次々と新商品を開発してきました。その一方で、超低金利などの影響を受けて販売を停止せざるを得なくなった終身保険商品も数多くあります。つまり、いつ契約するのかによって、選ぶべき商品が変わるということなのです。
それでは終身保険について、その種類と特徴を整理してみましょう。
一般勘定で運用される定額終身保険
生命保険の保険料は、安定的な運用を行う「一般勘定」と、積極的な投資で高収益を目指す「特別勘定」とに明確に区別されています。この二つの勘定のどちらに分類されるかによって、終身保険の特徴も大きく変わります。
一般勘定で運用されるのが、定額終身保険です。日本円建てのほか、米ドルなどの外貨建ての保険商品も販売されています。実際の運用実績にかかわらず、契約時に決められた予定利率、解約返戻金額、および死亡保険金額が確定しているのが特徴です。そのため、為替リスクのない日本円建てであれば、安全、確実に死亡保険金が確保できるのです。
定額終身保険には、積立利率変動型の保険商品もあり、実際の運用が予定利率を上回った場合には、解約返戻金および死亡保険金額を上乗せして契約者に還元することができます。これから金利が上昇する局面であれば、予定利率が高くない時期に契約しても、将来の死亡保険金額は増える可能性が高くなるでしょう。
また、低解約返戻金型の定額終身保険もあります。保険料払込期間中の解約返戻金を低く抑える代わりに、保険料を割安にしています。そのため、死亡保険金を確保するためのコストをかなり抑えることができます。非課税財産の確保が目的なら、貯蓄性を重視する必要はありません。定額終身保険を選ぶのであれば、低解約返戻金型がいいでしょう。
変額終身保険は特別勘定で運用される
特別勘定で運用されるのが、変額終身保険です。日本円建ての保険商品のみが販売されています。保険会社が持つ複数の特別勘定の中から、保険契約者が任意に投資対象と割合を決めて運用します。この投資対象と割合は、保険期間中自由に変更することが可能なので、保険契約者の裁量によっては死亡保険金額と解約返戻金が大きく増える可能性があります。ただし解約返戻金には元本保証がないので、金融資産が目減りするリスクもあります。
しかしながら、死亡保険金は契約時の基本保険金額が最低保証されるため、解約しない前提であれば、定額終身保険よりも保険料が割安です。そのため、非課税財産の確保には適しているかもしれません。
非課税財産を形成する保険安さと確実さで選ぶ
相続時の非課税財産形成のためだけに終身保険を検討するのであれば、重視すべきなのは保険料の安さです。その点では、低解約返戻金型終身保険と変額終身保険は保険料水準が比較的安いので、一定の死亡保険金の確保には適しているといえます。
変額終身保険は、運用次第で死亡保険金額が大幅に増額します。将来死亡保険金額が増えることを見越して少なめに掛けるのも一つのやり方かもしれませんが、思うように運用益が出なければ、非課税枠に達しないこともあります。最低保証される基本保険金額を非課税枠と同額程度とするか、定額終身保険と組み合わせて、リスク分散するべきではないでしょうか。
保険の豆知識 生命保険の特別勘定
変額保険や変額個人年金保険などで、その運用実績を直接保険金などに反映することを目的として、ほかの勘定と分離して運用・管理する、いわば生命保険会社にとっての別財布のような存在です。
投資対象は株式、債券などを中心に5~10種類前後(保険会社によって異なります)あり、どの投資対象に保険料をどれくらい投資するかを保険契約者が自由に決められます。
【ある保険商品の一例】
株式型:10%、日本成長株式型:15%、世界コア株式型:15%、世界株式型:15%、債券型:20%、世界債券型:0%、総合型:15%、短期金融市場型:10%など、自由に振り分けが可能
これらを毎月変更することも可能ですが、常にベンチマーク(日経平均株価、TOPIXやワールドインデックスなど)に注目しておく必要があるため、若干ハードルの高い投資型保険だといえます。
解説
保険ヴィレッジ 代表取締役 斎藤慎治氏
1965年7月16日生まれ。東京都北区出身。大家さん専門保険コーディネーター。家主。93年3月、大手損害保険会社を退社後、保険代理店を創業。2001年8月、保険ヴィレッジ設立、代表取締役に就任。10年、「大家さん専門保険コーディネーター」としてのコンサルティング事業を本格的に開始。
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【連載】家主版転ばぬ先の保険の知識 6月号掲載
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【連載】転ばぬ先の保険の知識:8月号掲載
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