永井ゆかりの刮目相待:6月号

コラム永井ゆかりの刮目相待

連載第93回 エアコンと損得勘定

転ばぬ先のつえ

 家主は常にコストを気にする。特に修繕や設備交換、リフォームは切迫感がなければ、やりたくないものだろう。確かに賃貸経営はそれほどもうかるものではない。新築はもちろんのこと、中古物件を購入するにしても多額の初期投資がかかる。その初期投資を長期間にわたって借入返済しながら利益を得ているし、税金負担も軽くない。

 だが、あまりその「コスト排除熱」が強すぎると、かえってマイナスになることがある。

 先日、私が尊敬する賃貸管理会社の社長から興味深い話を聞いた。その会社は毎年4月になると、管理物件の入居者に向けて、一度エアコンの電源を入れて作動するかどうかの確認をするように依頼している。その理由は、冷房が必要な夏にいざつけようとしたら故障で動かないという事態を未然に防ぐためだという。

 「真夏にエアコン故障の連絡があっても、修理業者がすぐに捕まらないかもしれません。それであれば、早めに確認して対応した方がいいでしょう。しかも、5月頃はエアコンの金額が安い時期でもあるのです」と某社長は話してくれた。

 なるほど、確かに真夏になって皆が一斉に冷房をつけ始めると、故障に気付くタイミングもほぼ同じ。工事業者を手配しにくいのはよく理解できる。入居者の満足度が下がるのはもちろんのこと、苦情を言われて動くのは、家主にとっても精神的な負担になる。

 「それでも入居者が皆、確認するわけではないので、時々夏になってから故障の連絡が入り、エアコンの交換ができるまで少し待つことになるのです」と苦笑しながら某社長は話していた。

まだ大丈夫は本当?

 誰だって、トラブルに対して未然対策が大切であることは知っている。だが、いざ出費を考えると「まだ大丈夫。何かあったらその時に対応したらいい」と思うものだろう。

 先日、実家に行った時に、エアコンの効きが悪かった。そこで家族に「そろそろエアコンを買い替えたらどうか」と提案した。だが、「効きが悪くてもまだ使えるから」とすぐに買い替える様子ではなかった。

 とはいっても、自宅であれば、効きが悪い程度なら、買い替えなくても自身が少し我慢すればいい話。ところが、賃貸住宅となると、多少効きが悪くても故障していないのだから交換しなくてもいいというのは少し違うだろう。

 確認したら実家のエアコンは購入して10年以上たっていた。それはさすがに替えたほうがいいし、何よりも10年以上前の商品と今販売されている商品とでは、性能も格段に違う。賃貸住宅の入居者は故障しないとなかなか家主や管理会社に言いにくい。しかも旧型だと、使用する入居者の電気代負担も変わる。

 エアコンや給湯器など10年ほどで交換の時期を迎える設備を故障していないのに交換するのは損をしているように感じるかもしれない。だが、長い目で見れば入居者の満足度が上がり、得をしていることになるだろう。

永井ゆかり

永井ゆかり

Profile:東京都生まれ。日本女子大学卒業後、「亀岡大郎取材班グループ」に入社。リフォーム業界向け新聞、ベンチャー企業向け雑誌などの記者を経て、2003年1月「週刊全国賃貸住宅新聞」の編集デスク就任。翌年取締役に就任。現在「地主と家主」編集長。著書に「生涯現役で稼ぐ!サラリーマン家主入門」(プレジデント社)がある。

(2025年 6月号掲載)

一覧に戻る

購読料金プランについて

アクセスランキング

≫ 一覧はこちら