古くなった外壁を放置しておくと問題がある?

コラム賃貸経営お悩み相談

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賃貸経営に関する法律のポイントをQ&A形式で解説します。

Q.資金に余裕がなく、外壁の修繕を控えたい……。 古くなった外壁を放置しておくと問題がある?

 私が経営している賃貸アパートはかなり古くなってきており、最近工事事業者から外壁の大規模修繕を勧められました。確かに外壁のタイルは剥がれ落ちそうですが、資金面に余裕はないので、できれば修繕したくありません。このような状況を放置したら、何か問題はありますか?

A.建物が古くなっても使用できるのなら修繕は不要。 使用・収益に支障が生じる場合は修繕義務あり

 家主と入居者との間ではアパートの賃貸借契約が締結されます。家主は入居者に対して賃借物を使用・収益させる義務を負うことになるため、入居者はその対価として家賃を支払います(民法601条)。そして、家主は賃貸物の使用および収益に必要な修繕をする義務も負うことになります。

 民法では、以下のように賃借物の修繕ルールが定められています。ただし、実際の賃貸借契約では、民法のルールとは異なる規定、例えば「軽微な修繕は賃借人が負担する」などと定められている場合があります。

〈原則〉家主に修繕義務があるので、家主が修繕費用を負担する必要があります。(民法606条1項本文)
〈例外〉賃借人のせいで建物を損傷してしまった場合などは家主に修繕義務はないので、家主が修繕費用を負担する必要はありません(民法606条1項ただし書き)。一方で、この場合には家主は賃借人に対して損害賠償を請求することができるので(民法415条、709条)、家主はこの賃借人からの損害賠償金を利用して修繕を行うことはできます。

 では、古くなったという理由だけで、家主は建物を修繕しなければならないのでしょうか。

 家主に義務付けられている修繕は「賃貸物の使用及び収益に必要な修繕」と定められているので、建物が古くなっても使用・収益できるのであれば、家主には修繕義務は発生しないと考えられます。

 もっとも、質問者のアパートの外壁のタイルは剥がれ落ちそうとのことなので、建物の安全性に問題があり建物の使用・収益に支障が生じるのであれば、賃貸人である質問者に修繕義務が発生すると考えられます。

 また修繕を行わなかった結果、入居者や通行人に被害が発生してしまった場合には、質問者が損害賠償責任を負う可能性があるので(民法415条、709条、717条)、早めに修繕することをおすすめします。

今回のポイント
家主に義務付けられているのは「賃貸物の使 用及び収益に必要な修繕」


         
建物が古くなっていても使用・収益できるのであれば、修繕義務は発生しない

安全性に問題があり使用・収益に支障が生じる場合には、修繕する必要あり


私たちが答えます

TMI総合法律事務所(東京都港区)

野間敬和弁護士:1995年、同志社大学大学院法学研究科修了。97年、弁護士登録。2003年、バージニア大学ロースクール修了。04年、ニューヨーク州弁護士資格取得。同年、メリルリンチ日本証券(現BofA証券)に出向。08 ~11年、筑波大学大学院ビジネス科学研究科講師、12年、証券・金融商品あっせん相談センターあっせん委員。11~14年、最高裁判所司法研修所民事弁護教官。

辻村慶太弁護士:2014年、一橋大学法科大学院修了、15年に弁護士登録。

(2025年8月号掲載)

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