最終回 家族信託で円満家族を守る! 実際にあった怖い事例と成功の秘訣
先祖から受け継いだ不動産と家業を次世代に承継させていきたいという地主・家主にとって、親や自身の認知症発症は大きなリスクだ。本連載では認知症などによる承継リスクに備えた対策について解説。不動産オーナーの「円満家族」 と「永続経営」の実現へ向け、家族信託をはじめとした事前にできる対策を紹介する。
家族信託を導入することで、賃貸不動産オーナーが高齢になってもスムーズに不動産経営を継続することが可能です。しかし、賃貸不動産の家族信託を有効に機能させるためには、入居者や金融機関も巻き込み、調整していくことが必要です。今回は、家族信託のプロが実際に行っている関係各所への連絡やそのタイミング、実際にあった家族信託の事例を解説します。
家族信託契約支援サービス 申し込み後の手続き
家族信託を効果的に機能させるためには、契約書の作成だけでなく、関係各所への連絡、調整が必要です。大きく、契約締結前と契約締結後に分かれます。 契約締結前の連絡、調整先としては、「信託口口座を開設する金融機関」「融資を受けている金融機関」などが該当します。特に融資を受けている金融機関は、契約締結後の連絡になると、信用を失うことになったり、事後的に契約書の修正を求められたりすることもあるため、必ず契約前に連絡をします。 金融機関内でも家族信託契約の内容を審議するため、2週間~1カ月ほど、場合によってはそれ以上の時間がかかることがあります。 また、契約締結後には下記の手続きや関係各所への連絡、説明も行っています。 ◦法務局への、信託による不動産の名義変更手続き ◦入居者や不動産管理会社、サブリース会社への連絡 ◦火災保険会社への連絡 火災保険会社に対して連絡を怠ると、保険事故が発生した際に保険金が支払われない危険があるため、絶対に連絡しておきたいところです。火災保険会社によっては契約変更が求められる場合もあります。
◦アパートの立ち退き要求や、建て替えを予定している
➡家族信託契約をすると、立ち退き費用や取り壊し費用について、損失の繰り越しができなくなる危険がある
◦物件を担保設定している、または今後融資を受ける可能性がある
➡家族信託契約締結前に、金融機関への確認が必須。家族信託契約を締結した後にも融資が受けられるとは限らない。担保や融資の契約について、事後的な修正を求められる可能性もある
実際にあった 怖い家族信託の事例
⑴資金凍結リスクがそのまま放置されていた事例
認知症の父親のために家族信託契約を締結したものの、家賃が振り込まれる口座は高齢の父親のままになっていました。支援した専門家からは何も指示がなかったとのことです。もし口座が凍結されると、信託契約があっても父親名義の口座から預金が下ろせなくなり、運転資金が不足する危険がありました。急いで振込先を子ども(受託者)の信託口口座に変えることを提案し、実施しました。
⑵不動産の承継先が勝手に決められていた事例
所有者である父親死亡後の不動産の承継先について、家族信託契約の中で勝手に「長男が承継する」となっていました。この家族は、父母と長男、次男の4人家族。長男は離れて暮らしており、次男が同居をしながら不動産賃貸事業を手伝っていました。長男と次男の関係も円満で、協力して両親や家業を支えていこうという家族でした。
セカンドオピニオンの相談で契約書を確認したところ不動産の承継者の契約条項に気付いたため、指摘すると「そんなことは確認された覚えがない」と青ざめた表情でとても驚いていました。早急に契約書の変更に着手し、間に合った事例です。
信託の内容は登記されるため、もし変更しないまま父親が死亡した場合には、たとえ相続人間で合意したとしても、承継先を変更することは難しくなります。この事例で後から次男に不動産の権利を移動しようとすると、多大な税金がかかる可能性がありました。
まとめ
家族信託は、家族で安心して賃貸不動産経営を続けるために有効な手段ですが、手続きや契約内容に十分な注意が必要です。信頼できる専門家に助けてもらい、進めると安心でしょう。既存の信託契約に不安がある場合には、セカンドオピニオンを求めることをおすすめします。
今回で本連載は最終回になります。約2年間の連載の中で、家族を守る、不動産経営を承継するための知恵と手段を伝えてきました。記事がきっかけで連絡を頂いたこともあり、大変うれしい経験をしました。本連載が役に立てていたら幸いです。
司法書士法人ソレイユ(東京都中央区)
司法書士 友田純平氏
【Profile】不動産オーナー、会社経営者の認知症・相続対策に特化しており、累計資産額は100億円以上。空き家を撲滅するために、実家信託協会の理事も兼任しており、「実家信託アドバイザー養成講座」をオンラインにて開発、提供している。
(2024年10月号掲載)
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【連載】円滑に承継を進めるための相続対策:9月号掲載
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