永井ゆかりの刮目相待:12月号掲載

相続権利調整

連載第87回 誰に依頼するのか

情報は取りにいく

 本誌は創刊してから21年間、相続をテーマにした取材を継続してきた。私も相続に関する取材は21年間し続けており、不動産資産の多い相続のケースについては知識や情報をそれなりに持っていると自負する。だが、最近久しぶりに集中して相続の専門家に取材していると、改めて勉強になることが多い。

 当然のことではあるが、時代が変われば制度も変わる。新制度について新しい知識を得ることが必要となるが、久しぶりに取材すると以前からある制度内容でも知らないことがある。あるいは制度への理解度が低かったために当初はその重要性に気付かず、時間を置いて改めて専門家に話を聞いて認識するということもまれにある。

 私の場合、相続について情報を集めたり、知識を身に付けたりする目的は、あくまでも記事を制作することにある。それゆえに長い期間にわたってこれらを蓄積することができるのは、記者冥みょう利りに尽きるだろう。

 ただ、読者の皆さんは違う。相続問題に直面する当事者だ。相続の知識や情報があるかないかで、その後の資産内容も家族関係も大きく変わってしまう可能性が高い。本当に自分が必要とする知識や情報は、都合良く向こうからはやってこない。本を読む、セミナーに足を運ぶなど自ら行動を起こすことが重要になってくる。

健康と資産は管理が大事

 無論、専門家ではない当事者が対応するのは限界がある。だが、誰に依頼すると安心して任せることができるのかを見極めるためにも、知識や情報を身につけることは必要だろう。

 先日、30年以上、地主や家主のさまざまな相続問題についての相談に対応をしてきた財産ドック(川崎市)の加藤豊社長が興味深い話をしてくれた。

 「体にメスを入れるとなれば執刀医の技術が信頼できるか本気で確かめたくなるのに、ご自身の資産のことになると、なぜか提案されたことをそのまま受け入れてしまいがちなのです」。

 確かに、これまでいろいろな相続事例を取材してきたが、相続対策がうまくできていない人たちの中には、税理士や銀行、建築会社などから勧められたことをそのまま受け入れて対応したという人が少なくない。

 「専門家だから」という理由だけで大切な資産について任せていいものなのだろうか。加藤社長は「それが命に関わる手術だったら、と置き換えるとそうはいかないだろう」と話す。加藤社長自身も手術をすることになったとき、担当医に執刀実績を確認したという。

 不動産資産を多く持つ地主や家主にとって、相続対策は資産あるいは家を守るために重要なことだ。依頼する専門家によって、大きく対策の内容は変わってくるし、結果も変わってくる。だからこそ、誰に相談し誰に依頼するのかを、事前に多くの情報を集めて見極めることが大切だ。

 本誌はこれからも読者の皆さんがいい専門家に出会う手掛かりとなる有効な情報を発信し続けていく。


永井ゆかり

Profile:東京都生まれ。日本女子大学卒業後、「亀岡大郎取材班グループ」に入社。リフォーム業界向け新聞、ベンチャー企業向け雑誌などの記者を経て、2003年1月「週刊全国賃貸住宅新聞」の編集デスク就任。翌年取締役に就任。現在「地主と家主」編集長。著書に「生涯現役で稼ぐ!サラリーマン家主入門」(プレジデント社)がある。

(2024年12月号掲載)

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