不動産オーナーは相続において、分割割合を巡るトラブルが生じることも少なくない。そこで、相続のトラブルを防ぐために押さえておきたい裁判例を、辻・本郷税理士法人(東京都新宿区)の山口拓也税理士と司法書士安西総合事務所(横浜市)の安西雅史司法書士に聞いた。
- 辻・本郷 税理士法人(東京新宿区) 山口拓也税理士(43)
- 司法書士安西総合事務所 (横浜市) 安西雅史 司法書士(49)
生命保険金は 取り扱い方を確認する
裁判の概要
1990年に亡くなった両親からの相続の事案。
子ども4人がもめたものの、ひとまず遺産分割調停は成立した。しかし、介護をしていた子どもAのみが、570万円ほどの生命保険金を唯一受け取っていた。ほかのきょうだい3人がこれに不満を感じて、特別受益になるとしてAを訴えたのだ。
相続人が受け取る生命保険金は、遺贈や贈与には該当しないというのが一般的である。しかし、その生命保険金の金額が受け取った相続人とそうでない相続人との間で是認することができないほどに過大な差がある事情がある場合には特別受益に準じて相続財産へ持ち戻しの対象となる。特別受益の持ち戻しとは、特別受益の持ち戻しとは、特別受益分を遺産に差し戻して相続分を計算し直すこと。
そして、是認できないほどに過大な事情があるかどうかについては、保険金の額、比率、同居の有無、介護の貢献度合いなど諸般の事情を考慮して判断すべきであるとされている。
この判例における裁判所の判断としては、争っているきょうだいや両親との関係や生活実態に照らすと、是認できないほど過大な事情があるとはいえないとして、特別受益には該当しないとされた。
判決理由
山口税理士は「今回の裁判例で、保険金が特別受益にあたらないと判断されたのは、その金額が遺産のうち4~5割を超えていないことも理由の一つだといえるでしょう。明確な決まりはありませんが、総額の4割を超えていると特別受益と見なされる可能性が高くなります」と話す。
ただし、この基準も絶対ではない。少数事案とは考えられるが、生命保険金が遺産総額よりも多かったものの、特別受益であると認められなかった例もある。広島高等裁判所令和4年2月25日決定では、遺産額459万円に対して生命保険が2100万円もかけられていた。保険金が遺産額の4・6倍にも上るが、被相続人との生活実態に基づいて持ち戻しは拒否された。遺産額だけでなく、今後の生活費として相当かといった特段の理由もあるかどうかで判断される。
生命保険金が特別受益と認められるか否かについては、傾向はあるものの絶対的な基準はなく個別判断となる。
(2025年3月号掲載)
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