家族にまつわる題材も多い掛け軸の価値を学ぶ

相続相続財産の評価額#連載

【連載】眠っているお宝 目の付けどころ:vol.5

掛け軸

お金に換えられない価値も

 掛け軸は、10世紀後半の中国の北宋時代に仏教の普及のため使われたのが起源だといわれているが、日本でも平安時代には貴族たちの間で愛好されていた。絵だけでなく、書も多いことが特徴だ。本来は四季に合わせて掛け替えるものなので、巻いて作品を休ませる必要もあった。

 「昨今は床の間がない家が多く、需要は減っています。コレクターがいるので買い手はいますが、今後価値が上がっていくのは難しい。今は海外の骨董こっとうブームで市場に盛り上がりがあるので、売却するなら早いほうが良いでしょう」と古美術八光堂銀座本店(東京都中央区)の酒本耕佑鑑定士は話す。

掛け軸の価値を見るポイントは
 ①箱
 ②軸先の素材
 ③保管状態

 の3点。箱は作者が署名や押印をした「共箱」、弟子や鑑定人が箱書きをした「識箱」、何も書いていない箱の3種類ある。箱は鑑定書の代わりなので、あるのとないのとでは査定額が変わる。ただし、箱書きのくずし字は読みにくく、箱違いということもあるので注意が必要だ。

 軸先の素材は象牙、鹿や牛の骨、陶器、木、石のほか、水晶や金属材、プラスチックなどがある。象牙が使われていると良いものである可能性が高く、プラスチックであれば近年の作品かもしれない。

 保管状態も大切なポイントといえる。長期間掛けたままにしたり、蔵などに入れっ放しにしたりしていると、湿気による反りや汚れ、日焼け、染み、シワが生じるほか、経年劣化による細かいひび割れが発生することもある。当然、状態が良いほうが査定額は高くなる。

 「日本の作家なら横山大観や上村松園は人気がありますが、偽物も多い。有名作家の場合は鑑定機関があるので、鑑定書を取得したほうが高値で売却できます。当店でも鑑定機関への依頼を代行しています」(酒本鑑定士)。ただし、有名・無名な作家のものという点だけで作品の価値が決まるわけではない。

▲︎人気の作家・上村松園の掛け軸を鑑定中の酒本鑑定士

 「お客さまの自宅で鑑定した作品に、地元の作家の掛け軸がありました。あまり有名な作家のものではなかったのですが、識箱に書かれていた由来を伝えると『母方の家系の名字です。家宝として取っておきます』と喜ばれました」(酒本鑑定士)

 「調べてみたら先祖が描かれた肖像画だった」など、掛け軸は家にまつわる題材も多いため、自分や家族にとっては大切なものとなる場合もある。値段が付かないから価値がないとは限らないのだ。最近では写真をメールで送って簡易的な査定をしてもらうサービスもあるので、専門家に依頼することをおすすめする。

お話を聞いた鑑定のプロ

古美術八光堂 銀座本店(東京都中央区)
酒本耕佑鑑定士

鑑定歴10年の実績を持ち、今までに約3万点以上の品物を鑑定。現在は関東エリアで出張買い取りを行う。

■店舗情報
創業40年以上の実績と経験を持つ骨董品・美術品などの買い取り専門店。国内で7店舗を展開。

(2025年 7月号掲載)

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