【連載】不動産に強い士業が教える14の知見:8月号

相続相続税対策

不動産会社と不動産に詳しい士業などの専門家を擁する一般社団法人不動産ビジネス専門家協会(東京都千代田区)。所属する14人の士業に知っておくべき情報を聞く。

第9回 不動産を三つに分類して相続対策に備える

 将来訪れる「相続」は、誰にとっても避けられない問題です。特に不動産を多く所有する地主・家主にとって、相続の準備は非常に重要です。不動産は現金のように簡単に分けられず、相続人の間でトラブルに発展することも少なくありません。

 さらに、相続税の納税資金の準備、物件の管理の承継、そして資産を減らさずに次世代にどう残すかという課題にも、早期の対応が求められます。

三つのタイプで異なる対策

 おすすめしたいのが、所有する不動産を三つのタイプに分類して見直すことです。それにより資産全体の整理が進み、今後必要な対策が明確になります。この分類は所有不動産が一つでも効果的です。どのタイプに当てはまるかを考えてみましょう。

①死守すべき不動産
 まずは「死守すべき不動産」です。これは、先祖代々の土地や自宅、本家の土地・建物など、家族や一族にとって特別な意味を持つ精神的な支柱となっているような不動産です。また日々の生活に欠かせない収入源となる農地・店舗などもこの分類に入るでしょう。

 このような不動産は、原則として手放さず、次世代へと確実に引き継いでいくべき「守る資産」です。そのためには、誰に何を相続させるのか、修繕・管理の費用をどう確保するのかなど、具体的なプランを家族と共有しておくことが大切です。

②活用すべき不動産
 次に「活用すべき不動産」です。これは現時点では十分に活用されていないが、工夫次第で収益を生む可能性がある不動産を指します。例えば、空き地や老朽化した建物、活用方法が定まっていない土地などが該当します。これらをこのまま放置しておくと、固定資産税や管理コストばかりがかかり、将来的には資産価値の低下にもつながります。

 しかし、用途の見直しや、適切に整備することで、収益を生み出す資産に変えることができるのです。例えば、事務所ビルから住宅への用途変更や、企業への貸し宅地といった選択肢もあります。

 ただし、活用には一定の投資が必要になるため、費用対効果や将来的な需要の見込みをきちんと検討することが重要です。「節税対策」として勧められたアパートやマンションを建築しても実際の需要とマッチしていないことも多く見受けられるので、信頼できる専門家に相談しながら、慎重に進めましょう。市場ニーズに合った投資であれば、結果的に相続税対策につながることもあります。

 そして、すでに高い収益を上げている「活用中の不動産」も、この分類に含まれます。賃貸マンションやアパート、商業テナントビル、月極駐車場など、安定した賃料収入を生んでいる物件は、まさに「資産を生かしている」状態にあります。

 ただし、こうした高収益物件は、資産価値が高く、売却もしやすいために、さまざまな不動産会社から「今が売り時です」「高値で買いたい人がいます」といった営業提案を受けることが多いです。

 もちろん、市場環境によっては売却を選ぶことが合理的なケースもありますが「今すぐ売る必要があるのか」「長期的に見て、この不動産は活用し続けるべきなのか」という視点で慎重に判断することが大切です。特に相続対策では、収益を生む物件は将来の納税資金の原資としても活用できる、非常に貴重な存在です。

 高く売れるから売るのではなく、その資産を持ち続ける価値を冷静に見極めることが、地主・家主としての重要な判断になります。買い取り事業者の言葉に流されず、自身と家族の方針を軸に意思決定を行いましょう。

③換金すべき不動産
 最後に「換金すべき不動産」です。これは、立地が悪く今後の価値上昇が見込めない、老朽化が進んで修繕費がかさむ、利用価値が低いなど、保有していても負担のほうが大きい不動産です。このような物件は、早めに売却して現金化しておくことをおすすめします。現金は相続税の納税資金や、ほかの不動産の修繕費・管理費として活用することができ、柔軟性の高い資産だからです。

 また相続後に相続人が急いで売却しなければならない状況になると、相場より安く手放さざるを得ないこともあります。時間に余裕があるうちに売却を検討しておくことで、納得のいく条件での資産整理が可能です。

分類で資産を「見える化」

 このように所有不動産を三つに分類することで、自身が持つ資産の全体像がクリアになります。何を守るべきか、何を生かすべきか、何を手放すべきかが見えてくるのです。
 
 そしてこの分類をきっかけに、
  ・相続税の試算
  ・納税資金の準備
  ・相続人同士の役割分担
  ・管理や運用の継続方針
といった、より具体的な相続対策につながります。そのために、まずは不動産を見直しましょう。

家族と早めに話し合おう

 不動産の相続にまつわるトラブルの多くは「話し合いの不足」と「準備の遅れ」から起こります。所有不動産の状況を整理し、三つに分類してみてください。そして家族とも話し合い、専門家のアドバイスを受けながら、将来の不安を少しずつ減らしていきましょう。

 不動産は「生きた資産」です。持っているだけでなく、生かしてこそ本当の価値があるのです。


今回の解説
一般社団法人あんしん相続支援センター(東京都墨田区)理事
アセット東京(東京都墨田区)代表取締役
宅地建物取引士・公認 不動産コンサルティングマスター
賃貸不動産経営管理士・2級ファイナンシャルプランニング技能士
小林 啓二氏

1985年から38年間、不動産事業に携わり、特に住宅(マンション・戸建て)の取引は1000件超の実績を持つ。また分譲マンションの開発および販売、賃貸不動産の総合管理に従事。さらに大手物販店の店舗開発にも携わった経験から、商業施設、公益施設の複合開発なども含む事業用不動産の取引全般にも精通している。最近は大手生命保険会社、新聞社、金融機関のセミナー講師や相続相談員としての活動も多数。

(2025年 8月号掲載)

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