【連載】認知症は怖くない!? 資産を守るためのキホン 6月号

相続事業継承

 遺言や家族信託ができなくなる状態とは

認知症の程度を判断し早めの対策を

 認知症は、誰もが発症する可能性があります。もちろん、不動産オーナーも例外ではありません。認知症が悪化すると、資産管理や相続対策ができなくなります。そのため「少しおかしいな」と感じたら、早めの対策が必要でしょう。

 そうはいっても、当の本人に向かって「認知症だ」とはなかなか言いにくいものです。認知症は、どこまで悪くなると取り返しがつかない状態になるのでしょうか。遺言や家族信託の観点で考えてみましょう。

遺言能力の有無が分かれ道

 遺言には遺言者の「意思能力」が必要です。意思能力とは意思表示をする能力で、具体的には自分がした行為の意味や結果を判断することができる精神能力です。その中でも、特に遺言することができるレベルの能力を「遺言能力」と呼びます。 認知症が悪化すると意思能力は低下しますが、遺言能力の有無は相対的に判断されます。例えば、「Aに全財産を相続させる」などの簡単な内容であれば、遺言能力ありと判断されやすいです。

 一方、家族信託でも、委託者となる不動産オーナーの意思能力は必須です。認知症が進行して家族信託契約を結ぶ意思能力まで失うと、家族信託を利用できなくなります。

長谷川式で10点が目安

 それでは、どの程度まで認知症が悪化すると遺言能力がないと判断されるのでしょうか。その際の一つの判断基準が、「長谷川式簡易知能評価スケール(HDS─R)」と呼ばれる簡易的な認知機能テストです。

 同スケールが10点以下の人は、重度の認知症と見なされます。そのため、遺言や家族信託ができなくなる認知症の程度は、同スケールの10点が一つの目安と考えていいでしょう。

 もちろん、個々の事案によって求められる遺言能力の程度が異なるので、しゃくし定規に11点以上なら大丈夫ということではありません。15点でも遺言能力の疑わしい人が珍しくないからです。認知症では早めの対策が望ましいため、言い出しにくい話題ですが、何かおかしいと感じたら、早めに医師の診察を勧めましょう。

解説 メディカルコンサルティング
(京都市)濱口裕之代表医師兼CEO

[プロフィール]

1996年京都府立医科大学卒業。医師が代表を務める法律事務所向け医療顧問業としては業界最大手のメディカルコンサルティングにおいて、140人の各科専門医と年間1000例の事案に取り組んでいる。「日経メディカル」で「濱口裕之の『治療だけで終わらせない交通事故診療』」を連載中。相続関係では、資産家向けに遺言能力鑑定を提供している。

(2024年6月号掲載)

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