【連載】円滑に承継を進めるための相続対策:7月号

相続相続税対策#相続#相続対策#事業承継

後継者に負担をかけないために知っておきたい敷金の相続対策

 先祖から受け継いだ不動産と家業を次世代に承継させていきたいという地主・家主にとって、親や自身の認知症発症は大きなリスクだ。本連載では認知症などによる承継リスクに備えた対策について解説。不動産オーナーの「円満家族」 と「永続経営」の実現へ向け、家族信託をはじめとした事前にできる対策を紹介する。

 家主にとって、敷金は相続対策で考慮すべきものの一つです。これが漏れてしまうと、相続人に思わぬ負担が生じます。今回は敷金の相続対策についてまとめました。

賃貸借契約の終了時敷金返還が明文化された

 民法改正以前は敷金に関する具体的な規定がありませんでしたが、2020年4月の民法改正により、敷金の定義と原状回復の範囲が明文化されました。

 この改正により、敷金は賃貸借契約終了時の債務や原状回復費用を控除し、その残金を返還しなければならない債務になりました。また、通常損耗や経年変化に対する原状回復費用を敷金から支払うことができなくなりました。

敷金は物件の相続人が自動的に負担する債務

 不動産の相続では、敷金も相続財産の一部として扱われます。敷金は特殊な債務であり、敷金付きの不動産を相続した相続人が自動的にその負担を引き受けます。通常の債務とは異なり、相続人の間でこの負担を分担することはできません。

 ここで重要となるのは、「契約書の保管」と「敷金の明確な管理」です。よくある問題として、敷金が被相続人によってほかの用途に使用されてしまい、現金として残っていないということがあります。

 例えば、賃貸人である父親が預かった敷金を生活費や日々の運転資金、急な修繕に充ててしまい、残っていないケースです。この場合、敷金を返すお金が足りず、物件を相続する子どもの負担が大きくなるという問題が発生します。また、賃貸借契約書が保管されておらず、敷金の取り決めを子どもが確認できないという事態に陥ることもあります。

 これらの問題を防ぐためには、不動産を管理する賃貸人が賃貸借契約書をしっかりと保管し、敷金を適切に区別して管理することが有効です。これにより、相続が発生した際に、相続人がスムーズに引き継ぐことができます。

建物の家族信託により敷金債務は受託者に移る

■敷金が考慮されていない場合のリスクと対策

 家族信託は、賃貸不動産オーナーの認知症などで不動産経営が困難になることに備えた対策です。家族信託によって不動産管理を信頼できる家族に移行し、オーナーが重い認知症になっても、その悪影響を受けずに賃貸事業を滞りなく継続させることができます。この過程で、敷金については見落とされることが多いです。

 敷金の債務は、家族信託の開始後は子どもなどの受託者がその責任を持ちます。そのため、家族信託を計画する際には、敷金相当額の金銭も信託財産に含める必要があります。

 信託財産に金融資産がなければ、賃貸借契約終了時に賃借人から敷金の返還を請求された際、受託者が自己の資金から立て替えて支払わねばならないというリスクがあります。

相続税対策で建物だけを生前贈与する場合に注意

 建物の生前贈与は、次の①〜③のように相続税の増加を防ぐ節税対策になり、かつ親の認知症対策にもなります。
①生前贈与は、減価償却により価値が下がった建物を、少ない税負担で子どもに渡す有効な手段です。これにより、建物の贈与税を抑え、子どもはより小さい負担で受け取ることができます。
②贈与後の家賃収入は土地を所有する親ではなく、建物を所有する子どもに入ります。そのため、親の資産の増加を防ぎつつ、子どもは家賃収入を使って将来の相続税納税資金を計画的に準備することができます。
③子どもに生前贈与した建物は、親の認知症によっても凍結しません。
ただし、建物を生前贈与するときには、敷金相当額の金銭も一緒に贈与することが重要です。そうしないと、建物の評価が取引価格で行われ、税務処理が複雑になり、予期せぬ税金負担が発生するリスクが生じます。※

(※参考資料「弁護士が見落としがちな相続事案の税務と登記―他士業の視点にみるポイント―」(新日本法規出版)98ページ)

【まとめ】
敷金は不動産賃貸経営とは切り離すことができない要素です。そのため敷金についても忘れずに対策してください。税務上のリスクが生じる可能性もあるため、専門家に相談して進めることが効果的です。

【Profile】
司法書士法人ソレイユ(東京都中央区)
司法書士 友田純平 氏

不動産オーナー、会社経営者の認知症・相続対策に向き合い、法人での累計資産額は100億円以上。依頼主は50筆超の土地を所有する地主をはじめ多岐にわたる。「経営をストップさせない」視点からの家族信託提案を行う。

▲司法書士法人ソレイユホームページ内動画
友田先生が本記事の内容をわかりやすく解説しています
https://votre-soleil.com/blog/jinushi/6682/

(2027年7月号掲載)

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