【連載】次世代が困らない 不動産承継対策:7月号掲載

相続事業継承#土地活用#相続#土地

不動産の有効活用の落とし穴 押さえておきたい注意点

 不動産の有効活用と一口にいっても、その手法はさまざまです。自己資金で賃貸用不動産を建てること以外にも、土地を時間貸し駐車場にするなど、手法に応じて必要な資金の額も大きく変わります。土地を所有している人にとってどのような手法を選択するかは悩みの種であり、選択を誤ると資産承継対策がうまく進まないケースが少なくありません。本連載の第11回は「不動産の有効活用の落とし穴 押さえておきたい注意点」について、事例を基に解説します。

特定の土地だけで考えない

【図1】A氏のケース

 A氏は父親から相続した土地(更地)を、事業用定期借地権方式でスーパーマーケットに賃貸していました。店舗敷地内に駐車場のスペースが確保できないため、スーパーマーケットの専用駐車場として追加で貸してほしいという申し出を受け、店舗敷地のほかに土地aと土地bを駐車場として賃貸することになりました。(図1)
 本来であれば、土地aと土地bは、将来の納税資金として保有していくつもりでした。しかし、大規模小売店舗立地法の下で店舗面積に応じて必要な駐車場や駐輪場の設置台数が決まっているため、やむを得ず提供することにしました。また、スーパーマーケット(事業用定期借地契約締結)が退去するまで売却ができないため、流動性を失ってしまいました。
 A氏は、どうすればよかったのでしょうか。対応策のポイントは以下のとおりです。

❶全体の資産を把握したうえで選択すること

 有効活用をする際の重要なポイントは、全体の保有資産を把握したうえでそれぞれの土地に適した手法を選択することです。特に事例のように対象地だけで完結せず、ほかの土地も提供しなければならない場合は、本当に提供しても良い土地なのか、十分に検討しましょう。
 また、提供する場合は契約内容にも注意して、万が一のために解約条件も必ず確認するようにしましょう。

❷売却できるのか、納税財源は確保できるのか市場価値を把握すること

 有効活用の検証をする際は必ず、売却できるのか市場価値を把握しておきましょう。納税資金の確保のためにやむを得ず売却することになった場合や、経済的な事情で万が一売却の必要に迫られたときに、土地を賃貸したことで流動性を失い、市場価値が下落することもあるため注意が必要です。

❸有効活用の手法は将来を見据えて選択すること

 どのような手法を選択しても、メリットとデメリットがあります。必要資金や収益率が異なるだけでなく、管理の手間や維持コスト、流動性も違います。そのため、長期的に考えて選択しないと、事例のように納税資金の確保のために保有し続ける土地の流動性を失わせることになるので、注意が必要です。
 大切なのは、全体の資産を把握し、将来を見据えることです。資産背景に適した有効活用の手法を多面的に検証したうえで、総合的に判断するようにしましょう。

広大な土地の三つの注意点

【図2】B氏のケース

 B氏は地方都市に1000坪の広大な土地を保有しており、有効活用の一環で、ロードサイド店舗として特産物販売店と時間貸し駐車場を運営する事業者に土地を賃貸していました。
 B氏が亡くなり、土地を相続したB氏の息子は納税のために流動性が高い時間貸し駐車場を売却することにしました。しかしそれが要因で、残った土地の有効活用の選択肢を狭めることになってしまったのです。
 店舗として残った土地には、契約期間20年の事業用定期借地契約が締結されており、契約期間満了まで10年を残しておりました。そのため、土地が更地で返還されるまでには期間を要し、残った土地を有効活用することはできませんでした。
 結果として、収益性や流動性の低い土地が残ったのです。納税はできたものの、B氏の息子は困ってしまいました。(図2)
 こうした失敗をしないためには、どのような選択をするべきだったのでしょうか。ポイントは以下のとおりです。

❶相続発生前から土地全体の活用プランを想定すること

 土地全体を俯瞰することが大切です。どの部分を売却し納税に充てるのか、残った土地は本当に有効活用できる土地なのか、実現の可能性も含めて検証するようにしましょう。
 事例では納税を目的に安易な判断で時間貸し駐車場を売却してしまいましたが、残った土地の利用状況を踏まえて総合的に判断するようにしましょう。

❷事業用定期借地権方式の特徴を正しく把握すること

 この方式の特徴としては、契約期間を10年以上50年未満の間で定めることができます。長期的に安定した収益をもたらし、将来は更地で土地の返還を受けられるため、土地の有効活用の手法として有用です。また、必要資金も少額で済むので、自己資金が少ない人や金融機関から借り入れをしたくない人にもメリットがあります。

 一方で、収益性は低く一般的には土地の時価の1%から3%程度で、事例のような地方都市で地価が安い場所だと収益性はさらに低くなるデメリットもあります。従って、事業用定期借地権方式を選択する場合は土地の時価を把握しておくことが重要です。 
 また、公正証書での契約が必要であり、それ以外の契約は無効となるため注意しましょう。

❸信頼できる不動産の専門家に相談すること

 広大な土地の有効活用は選択肢が複数ある一方で、誤った有効活用を選択してしまうことがあるため注意が必要です。有効活用の目的が曖昧だと思うような収益が得られず、手法によっては多額の借り入れが必要になります。その結果、返済が行き詰まり、土地を売却しなければならないなどの思わぬトラブルに発展する可能性があります。

 計画段階で有効活用の目的を明確にしておき、信頼できる不動産の専門家とも相談して慎重に進めるようにしましょう。

解説者
山田コンサルティンググループ(東京都千代田区)
不動産コンサルティング事業本部 営業部
小野口 裕樹マネージャー

宅地建物取引士。2015年4月、山田不動産コンサルティング(現山田コンサルティンググループ)入社。売買仲介のみならず、地主アドバイザー、底地・借地の権利調整、物納コンサルティングなど各種コンサルティング役務を提供。クライアントに寄り添い問題解決を行う。

(2024年7月号掲載)

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