【特集】基本を知れば怖くない 税務調査への 対応策:④私はこう対応した地主・家主の体験

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私はこう対応した地主・家主の体験

 実際に調査を体験した3人の地主・家主に話を聞いた。現場で経験した調査の流れのほか、なぜ税務調査の対象となったのかについて参考になる。

弟と申告内容が違い、追徴課税される

 東京都北部で農業の傍ら賃貸経営を行う植木誠一オーナー(東京都)。相続対策で祖父の養子に入っており、2013年に祖父が亡くなり1次相続を、17年に父が亡くなり2次相続を経験した。祖父には商才があり、一代で築いた総資産は50億円にも上った。複数人で相続しても、植木オーナーの支払った相続税額は5億円にもなったという。

 税務調査が入ったのは2次相続のときだ。弟のほうが多く相続したため、植木オーナーの納税額は1000万円ほどだったが、3年たってから「納税額が足りないからあと2000万円支払うように」との連絡が入ったのだという。税務署に来てほしいと指示があったため、顧問税理士と共に地元税務署に何度か出向いた。

 父は生前、植木オーナーの弟と2人で販売系の会社を経営していた。2人の会社は赤字経営で、父が会社に約5億円を貸し付けている状態だった。その部分の評価が問題となったのである。

 会社への貸付金は父の個人資産となるが、会社の平均利益などから判断して弁済不可能となる部分を省いた評価額として申告することができる。過去に認められている裁判例も複数あるのだが、税務署はこれを問題視した。

 顧問税理士も資料や裁判例を用いて応戦。結局訴訟にまで発展したが、弁済不可能だとは認められず、一審は敗訴してしまった。修正申告分と追徴課税額を合わせた2000万円ほどを支払わざるを得ない状況となってしまったのである。

 過去の事例と照らしても弁済不可能部分を厳しく判定したにもかかわらず、敗訴してしまった理由は何なのか。

 実は弟は会社の顧問税理士に相続税の申告も任せていた。植木オーナーは、かねて会社の経理が二重帳簿を疑わざるを得ないような内容だったため、やむなく自身の申告については別途、信頼できる大手税理士法人に依頼したのである。「祖父の1次相続の時のように、きちんとした税理士に依頼しなければならないと弟を説得したのですがかないませんでした」(植木オーナー)。その結果、弟の申告内容と差が出てしまったのだ。

 弟側が税務署の意に沿う内容で支払ってしまったため、それが実績となり裁判で不利になった。「きょうだいの足並みをそろえる必要があります。税理士が複数人になってしまうような事態を避けるため、元気なうちから積極的にお金と死後について話し、公正証書遺言を残すべきです」(植木オーナー)

架空工事の疑いかけられるも完璧なエビデンスで応戦

 2014~18年にかけて税務調査を経験したのは山野真一オーナー(東京都)だ。「ご入居者さまの生活を預かっているわけだから、住宅の快適性や利便性は真っ先に家主が担保すべきもの」との考えの下、賃貸経営を行う。所有している4棟は絶対に売却しないと決め、メンテナンスに徹底的にお金をかけている。だが、そのことがあだになって税務署には架空工事を疑われてしまうのだという。工事費用や住宅設備などについて減価償却資産としているため、結果的に税金の圧縮(節税)になっているためだ。

 「もともとのポリシーに加え、躯体に問題がある物件の工事費がかさんだこともあり、私の場合は保有資産に対して減価償却資産の割合が大きいのです」(山野オーナー)。税務署の職員から自宅の税務調査をしたい旨の連絡があったが、自宅マンションが狭く、近隣住戸に迷惑がかかる可能性があるため、税務署に出向いてヒアリングを受けた。

 税務署では、取調室に通されて山野オーナーと職員3人の構図となる。「あなた、架空工事をしていますよね」と職員はカマをかけてくる。きちんと工事会社に費用を支払っているのか、支払っていたとしてもキャッシュバックはないかについてメインバンクにて事前調査を行い、何の証拠もないのにヒアリングするのである。「私は信頼できる税理士に依頼して完璧に申告しています。当然、追徴課税などされたこともありません」と山野オーナー。何度疑われようとも、ミスはない。

 山野オーナーは、もともと銀行員だったが税金に関しては弱い部分があると自覚している。それゆえ、言うべきことをしっかり言ってくれる税理士を探した。「家主の希望に沿いすぎるのではなく、時に厳しく指導してくれる税理士をおすすめします。たとえ税務調査の対象になっても、ミスがなければ痛くもかゆくもないのです」(山野オーナー)

税務署は勤め先までをも調べてやってくる

 10年前にいわゆる税務署員の訪問を受ける実地での税務調査を受けたのは小林正人オーナー(名古屋市)だ。小林オーナーが1人で作成した確定申告が調査対象となった。申告直後に契約した顧問税理士に見てもらったところ、貸方と借方を間違えて、8桁の利益があったのに利益なしで申告してしまっていたのだ。

 初歩的なミスだったが、管轄の税務署だけでなく、東海財務局も一緒に訪問すると伝えられた。小林オーナーは「財務局が来るなんて、よほど大きな違反でもなければあり得ないのに」と疑問に思いつつ、調査の日は顧問税理士に同席してもらうことにした。

 当日は、当時暮らしていたアパートに調査員2人が訪れた。調査自体は単純な入力間違いだったので、契約書類を見せて終了。当初は午前9時から午後5時まで自宅でヒアリングの予定だったが、顧問税理士が短く切り上げるよう掛け合ってくれて2時間程度で終わった。後日何度か税務署に出向いて調整の後、100万円追加で納税することで決着した。

 なぜ東海財務局が来たのか。実は小林オーナーの当時の勤め先は、脱税で税務署に取り締まられたことがあった。その関連で、会社のお金を横領して投資したと疑われたのではと小林オーナーは推測する。「サラリーマン家主の場合は、勤め先も見られている可能性があるので気を付けてほしいです。また、利益が出ているなら早めに税理士に見てもらうようにしたほうがいいと思います」と話してくれた。

(2024年7月号掲載)

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