PART 3 遺言書を作成するとともに考えておきたいこと
遺言書作成時は、次世代がスムーズに相続手続き・資産継承を進められるように配慮が必要だ。どのような配慮が必要なのか見て考えておこう。
相続人同士で 不動産を共有しない
遺言書作成の際に注意したいのが、遺産の分け方だ。不動産は共有せずに、使用する相続人に渡すことが重要だという。
「すべての財産を平等に分けるために、法定相続分どおり不動産を共有させようと考える人は多いですが、できる限り避けるべきです。共有にすると、相続人同士でトラブルになる可能性があります。不動産を相続する際は、単独所有になるように遺言書に記載するべきでしょう」(佐山行政書士)
納税資金の確保が必須 資金繰りプランを準備
また不動産オーナーは相続税額だけでなく、納税資金まで考える必要がある。遺産のうち不動産の割合が大半を占めている場合、後継者が納税資金の捻出に困るケースがある。
田中弁護士は「不動産を渡す側のオーナーであれば、手持ちの不動産のうちA番地の土地を売却し、納税資金を捻出するイメージがつくでしょう。しかし、次世代のオーナーは不動産取引に慣れておらず、相続税申告がスムーズに進まない場合があります」と話す。後継者の納税プランも示しておきたい。
「相続税の納税のために不動産を売却するとしても、スケジュールを考えなければなりません。そのスケジュールを考えていくうえで、どのようなタイミングでどのくらいの金額が必要なのか予想し、あらかじめ資金繰りのプランを準備したほうがいいでしょう」(三宅弁護士)
不動産を事前に現金化しておいたほうがいい場合もあるが、そのままのほうが評価額を減額できる。基本的には不動産の形で相続させることがいいケースが多いだろう。
生前に相続について 話し合う
重要なことは家族内での相続に関する話し合いを進めておくことだ。三宅弁護士は「不動産と同時に数億円もの借入金を引き継ぐことになると、尻込みする後継者もいます。まず家族間でコミュニケーションを取ったうえで、適切な財産の承継方法を考えてほしいです」と話す。
>>親の遺言書作成は後継者が促す
遺言を積極的に書きたいと考えている人はほとんどいない。しぶしぶ書くにもかかわらずお金がかかり、面倒な手続きが多いとなると、嫌になって作成をやめてしまうこともある。こんなときこそ、後継者が率先して動くべきだという。
佐山行政書士は「専門家への費用まで後継者が払ったり、必要書類を集めたりすると話が進みやすいでしょう。親が遺言を書くハードルが低くなります」と話す。
また「遺言」という言葉を使わずに「公正証書を作ってほしい」と親に伝えると、了承してもらえる可能性が高くなるという。
PART 4 遺留分を侵害しない財産分割を心がける
遺言を作成しても、相続割合によっては遺留分のトラブルが発生する。回避のためのポイントを見ていこう。
遺留分対策をしておき トラブルを回避する
遺言にまつわるトラブルは遺留分に関するものが多い。遺留分とは、法定相続人が最低限もらえる割合のこと。きょうだい以外の相続人には、法定相続分として一定の遺留分がある。特に不動産オーナーにおいては遺留分のトラブルが発生しやすいという。
田中弁護士は「不動産の評価額は、計算方法によって金額に幅が出ます。評価額を高く見積もって、遺留分を多く請求しようと考える相続人もいます」と話す。
トラブルを防ぐためには、多少不動産の評価額が上振れしても遺留分を侵害されないような余裕のある財産分割をしたうえで、遺言書を作ることが大切だといえる。
取材協力者
行政書士さやま法務コンサルティング(愛知県東海市)
佐山和弘行政書士
弁護士法人Y&P法律事務所(東京都千代田区)
三宅智啓弁護士
弁護士法人Y&P法律事務所(東京都千代田区)
田中康敦弁護士
(2024年12月号掲載)
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