第4回 アスベスト訴訟一審・後編
裁判を有利に運ぶためには、「証拠」や「過去の裁判例」を利用しながら主張するのが効果的です。そこで、今回の裁判では某宅配事業者の裁判を参考にしました。
◦過去の裁判の証拠を調査
控訴審を含めると6年もの時間をかけて闘っていたこの宅配事業者の裁判では、証拠甲第69号証において、石綿が周囲の大気中に飛散する可能性があるという専門家の意見が認められ、それに対し対処が必要であった、と判断されました。そして高等裁判所の判決文には、この専門家の意見書が重要証拠として採用されていました。
この証拠甲第69号証が私の裁判でも有益なのではないかと考え、入手したいと思いました。しかし、インターネットを使って判決文を入手できても、裁判で提出された準備書面や証拠まで入手することは通常はできません。
そのため、わざわざ東京地裁まで出向き、民事事件記録の閲覧申請を行いました。
民事事件記録は事前に担当裁判所に連絡し、150円の収入印紙代を支払えば資料を用意してくれます。ただし、実は閲覧はできてもコピーはさせてもらえません。
そこで始発の飛行機で出発し、裁判所で閉所時間までひたすらノートパソコンに記録を書き写す作業を2日間行いました。証拠甲第69号証の分だけでも、丸一日かかりました。
また、裁判で証拠を提出する場合は、証拠説明書という、標目・作成者・立証趣旨を一覧にまとめた表紙も提出しています。その中から自分の裁判で参考になるものを探して資料として作成し、弁護士に渡しました。
◦本人尋問の傍聴
裁判が終盤になると、本人尋問が行われます。テレビドラマなどでよく見かけるものの、尋問に慣れていないと緊張して不利な発言をしてしまうのではないかと心配になり、一度傍聴してみようと地元の裁判所に足を運びました。
当日は交通死亡事故による損害賠償請求事件を傍聴することができたのですが、なんと被告(加害者側)代理人弁護士が厳しい尋問を行い、被害者遺族である原告女性(被害者の娘)を泣かせてしまっていたのです。
これは衝撃的で、相当なリハーサルが必要だと考えました。 まずは裁判所の雰囲気に慣れなければと思い地元の裁判所に通ってみましたが、地方のためか事件がまったくありませんでした。そのため、東京出張のついでに何度も東京地裁で本人尋問を傍聴することで、雰囲気に慣れる訓練を行いました。
また、弁護士とは想定問答を作成し、事務所内で模擬尋問を行い当日に備えました。
◦一審の判決
一審に2年半を費やしたのですが、判決は「棄却」で、こちらが100%負けてしまいました。
次回はなぜ負けたのか、その理由を伝えたいと思います。
多喜裕介オーナー
32歳で不動産賃貸事業を始め、34歳で独立した元サラリーマンの大家。現在、アパートを中心に16棟120室と太陽光発電所2基を所有。著書に「田舎大家流不動産投資術 たった3年で家賃年収4700万円を達成した私の成功法則」(合同フォレスト)や、「田舎大家流『新築×IoT』不動産投資術 新築アパートはスマートホームで成功する!」(セルバ出版)がある。
(2024年8月号掲載)
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