【連載】実録 家主が挑んだアスベスト訴訟第5回 一審・判決編

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第5回 アスベスト訴訟一審・判決編

 一審では「アスベスト(石綿)含有成形板が使用されていることを原告に告知すべき義務を被告が負っていたとは言えない」と判断され、請求は「棄却」となりました。判決文を要約して説明します。

【告知義務違反について】

(1)継続使用に関しては法令上規制されていない

(2)直ちに本件建物の使用収益が妨げられるわけではない

➡痛いところを指摘されたなと思っています。

売買決済時点では、空室が5戸ありました。基本的な修繕や適切なリフォームを施すことで、満室にならなくとも空室は2戸程度で推移していました。私が家主になった後に、経営が改善していたのです。こういった事情もあり、反論の余地がありませんでした。

(3)建物を取り壊し、本件土地を転用することを予定したなどの事情は認められない

➡本人尋問で物件を売却することを最終的に想定している旨を発言していましたが、取り壊さないのであれば、追加費用はかからないとの判断でした。

(4)物件状況確認書に、石綿使用調査結果の有無に関する項目のみが設けられ、石綿使用の有無に関する項目が設けられていなかった

➡アスベスト含有建材の使用の有無が売買契約締結に影響を及ぼす情報ではないため、被告は原告に告知すべき義務を負っていないと判断されてしまったのです。しかし、知っていたのなら告知するべきではないでしょうか。

【瑕か疵し担保責任について】

では、建物の瑕疵の有無についてですが、以下を理由に「瑕疵があったとは言えない」と判断されました。

(5)建物にアスベスト含有建材が使用されていないことが本件契約の条件になっていない

➡あくまでも売主・買主双方がアスベストの存在を認識していないことが前提であると考えます。なぜなら、私が物件を売却する際にアスベストの存在を認識していれば、こちらが不利になるからです。

(6)建物にアスベスト含有成形板が使用されていることによって「本件契約を締結した目的を達成できない」とは言えない

➡これは微妙な判断ですが、物件購入から経営を経て売却する中で、最終的に売却の利益を損なうのは意に反しています。

(7)アスベスト含有成形板が使用されているからといって、本件建物が通常有すべき品質ないし性能を欠いているとはいえない

➡そのとおりで、現在でも入居者は生活できています。 

裁判所は総じて「原告に何か不都合があるの」と言わんばかりの判決を出してきました。

しかし一般社会の認識は果たしてそうでしょうか。「アスベスト」「石綿」という単語を聞くだけで、忌避感を抱いたり、問題視されると思いませんか。

次回は二審に向けてどのような対策をしたのか、伝えたいと思います。

一審判決の概要

1.アスベスト含有成形板の継続使用は法的に規制されていない
2.物件の経営で収益がある
3.取り壊す予定がない
4.アスベスト使用の有無は売買契約に影響しない
5.アスベスト不使用は契約の条件ではない
6.売買契約締結の目的は達成可能
7.物件に居住するうえでは問題がない

 

多喜裕介オーナー

32歳で不動産賃貸事業を始め、34歳で独立した元サラリーマンの大家。現在、アパートを中心に16棟120室と太陽光発電所2基を所有。著書に「田舎大家流不動産投資術 たった3年で家賃年収4700万円を達成した私の成功法則」(合同フォレスト)や、「田舎大家流『新築×IoT』不動産投資術 新築アパートはスマートホームで成功する!」(セルバ出版)がある。

(2024年9月号掲載)
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