最終回 アスベスト訴訟二審棄却とその影響
二審判決文の内容は、一審判決文を全面的に肯定し、さらに詳細に補足説明を行ったものとなりました。
【二審の裁判所の判断】
- 裁判所がこちらの主張を否定した理由は以下になります。
アスベスト(石綿)含有成形板の継続使用は法令上規制されていないため、その使用情報開示は当然の内容にならない - 買主は建物を賃貸に供し続けているため、目的を達し得ないわけではない
- アスベスト含有成形板により市場価値が低下することを否定しないが、市場価値を低下させ得る建材の特性は無数にあるから瑕疵と解釈するには非現実的である
- 瑕疵かどうかは「通常有すべき品質ないし性能を欠いている」と評価できるかどうかであり、物理的・心理的にかかわらず変わることはない
【判決の影響】
上記からは、建物を継続使用する場合においては、アスベスト含有建材の使用情報の開示義務はないと判断することができます。そのため、仮にアスベスト含有成形板の存在を知っていたとしても、建物の継続使用には特段の影響はないと思われます。
しかし、参考にした過去の裁判例では、解体を前提とした売買契約の場合は、瑕疵と判断されています。
そのため、後にトラブルにならないようにするために、2006年以前に建てられた物件を解体前提で売却するのであれば、アスベスト含有建材の使用が発覚しても免責される旨の特約が必要と考えられます。
【裁判を終えて】
3年半かけて闘った裁判ですが、一審と同様に二審も棄却となりました。三審(最高裁)に上告しても棄却(門前払い)が目に見えているので、この判決を受け入れざるを得ません。
二審判決が出た当初は、悔しいというより残念な気持ちに陥っていたのですが、ふとあることが頭をよぎりました。
「アスベスト含有建材を使用している物件を継続使用する場合は、瑕疵ではないと裁判所がお墨付きを与えた」と。
そうであるならば、この物件を売却する際に買主側に調査結果を提出し、アスベスト含有建材を理由に物件価格を減額されたとしても、判決文を根拠に瑕疵を否定することができます。
判決文を否定できる人間はいないといっても過言ではないため、物件の価値は維持される、つまり裁判所によって物件の毀損は免れたことになります。
そう考えると、裁判では負けましたが、最低限のメリットは勝ち取り、決して無駄ではなかったということで救いはあったと思っています。
最後に、全7回の連載を読んでいただき、ありがとうございました。私の経験が少しでも皆さんの賃貸経営のお役に立てたのであれば幸いです。
多喜裕介オーナー
32歳で不動産賃貸事業を始め、34歳で独立した元サラリーマンの大家。現在、アパートを中心に15棟112室と太陽光発電所2基を所有。著書に「田舎大家流不動産投資術 たった3年で家賃年収4700万円を達成した私の成功法則」(合同フォレスト)や、「田舎大家流『新築×IoT』不動産投資術 新築アパートはスマートホームで成功する!」(セルバ出版)がある。
(2024年11月号掲載)
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