第1回 借地権の取得 ~借地整理のチャンス~
【相 談】
借地人から、借地権を売却したいと相談がありました。どのように対応すればいいでしょうか?
【回 答】
地主側の対応としては、借地人と話し合い、借地権の実際の売値(実務上の相場)よりも売買代金が下がるのであれば、借地人の申し出に応じ、買い取ることをおすすめします。
地主の皆さんが頭を悩ませている「底地の整理」をテーマに、1年間にわたってコラムを連載します。どのようなタイミングで、どの8ようにすれば借地・底地が整理できるのか。いわゆる借地の解消について、注意点を解説していきます。
地主の中には「借地人側で使う必要がなければ、建物を取り壊して地主にタダで返還しなさい」と考える人もいますが、借地人側が「借地権付き建物を売却してお金に換えたい」と希望している以上、無償で借地権を返還させるのは困難です。
もし、地主が自ら買い取らなかった場合、借地人は何とか換金しようとして、安い値段で借地を第三者に売却することを考えます。通常の契約で貸している借地ならば、地主が承諾しないと、借地人は第三者に借地を売却できません。
ただし、地主が借地権譲渡を承諾しない場合に、借地人が裁判所にその許可を求める「借地非訟手続き」を申し立てると、大概、地主が反対していても、借地権は裁判所の許可を得て売却されてしまいます。
第三者に安い値段で借地を売却されてしまうことは、地主にとっては安い値段で借地を取り戻すチャンスを失うことを意味します。
借地の買い取り価格 相場は更地の5割以下
借地権を地主側で買い取って借地の整理をする場合、私がアドバイスしている買取価格は、更地価格(公示価格)の半額以下です。
地主が「ぜひ返してほしい」という魅力ある土地なら、更地価格の5割でも構いません。地主にとって、引き取ってもあまり価値はないが、借地の整理をしたいという理由なら、更地価格の3~4割の買い取り価格でもいいと思います。
理論的には、借地権価格は、「更地価格×借地権割合」で計算します。例えば、更地価格が1坪あたり100万円の地主の土地に、旧借地法で木造建築物所有目的の借地権が設定されていると仮定します。都市近郊で借地権割合が60%になっているなら、借地権価格は1坪あたり60万円です。しかし、理論的に計算した借地権価格のとおりに、借地人が1坪あたり60万円で第三者に売ろうとしたところで、買い手は誰もいません。
借地権を買っても「地代について地主と交渉が必要」「譲渡するには地主の承諾が要る」「増改築禁止特約があれば、地主の承諾がないと建て替え・増築ができない」「更新時には更新料の交渉が必要」「借地では銀行借り入れが難しい」など、非常に多くのハンディがあるため、借地を好んで買う人はいないのです。
このように、借地は市場性がなく売りにくいので、実際には、上記の借地権価格どおりには売れないのが普通です。そのため、実際の売却可能価格は、更地価格の半額以下になってしまいます。
例えば、1坪あたりの更地価格が100万円で、借地権価格が60万円の場合、50坪の借地なら理論的には3000万円の借地権価格となります。しかし、実際は借地を1500万円程度で売却できれば、借地人にとっては大成功だと思われます。
このような借地の売却の実情を借地人によく話して理解してもらい、地主側としても、あまり値切らずに買い取り価格の交渉をすることをおすすめします。
借地上の建物の解体 地主による手配がおすすめ
借地の買い取りで必ずといっていいほど問題になるのが、建物の解体です。多くの場合、借地上の建物が古く、地主が引き取っても、賃貸に回せないなどの問題があるからです。
私は、地主が借地を更地価格の半額以下で買い取れるなら、建物ごと買い取って、地主の費用負担で解体することをおすすめしています。
借地人側で解体してもらう場合、安い金額で引き受ける事業者に依頼して、土台などを埋められてしまうなどのトラブルが発生する可能性があるからです。
もちろん、借地人側と協議し、解体費用の見積もりを取り、その半額を借地人の負担として、売却価格から差し引く方法もあります。
弁護士法人立川・及川・野竹法律事務所(横浜市)
代表弁護士 立川正雄
【プロフィール】1952年生まれ。77年、弁護士資格取得。80年、法律事務所開業。多数の宅建業者・建設事業者の顧問先を持ち、実務に即したアドバイス・実務処理を行う。公益社団法人神奈川県宅地建物取引業協会の顧問弁護士、一般財団法人不動産適正取引推進機構の紛争処理委員なども務め、宅建業者向け講演会を40年以上にわたり開催。講演・執筆など、多方面で活動する。
(2025年1月号掲載)
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