第2回 地主が借地権を取得する際の建物の処理
【相 談】
借地人から「借地権を地主に売却したいが、借地上の古い建物も地主に引き取ってほしい」と言われました。借地人が更地にすべきだと思うのですが、どのように対応すればいいでしょうか?
【回 答】
借地人が、借地権を地主に売る際に、建物も引き取るという条件に固執するなら、話をまとめやすくするために、建物ごと買い取ることをおすすめします。
借地権を買い取るとき、よく問題になるのが、借地上の古い建物です。借地人の多くが「建物も地主が引き取ってほしい」と要望するからです。
底地・借地を整理・解消できる機会については前回話しましたが、地主が借地権を買い取れるチャンスはそう多くありません。借地人が「古い建物を地主が引き取ってくれるなら、借地権を売ってもいい」と考えている場合、地主としては、建物ごと積極的に買うことを検討しましょう。
建物ごと買って処分する
借地人が地主に引き取ってほしいという借地上の建物は、大概、古くて使えません。その場合、私は「借地権を借地権価格(例えば更地価格の6割)より大幅に安く(例えば更地価格の3~4割以下)買えるなら、話をまとめるために建物は引き取りましょう」とアドバイスしています。
建物が築30年以上経過していて、地主が引き取っても利用できない場合、建物は解体することになります。解体には費用がかかるため、その旨を率直に借地人に話し、建物は無償で引き取ります。
もちろん、比較的高い価格で借地権を買う場合は、解体費用の見積もりを取り、解体費用の全部または半額程度を借地人の負担として売却値段から差し引くことを、借地人と交渉する方法もあります。
建物がリフォームして使える状態なら、ある程度の値段で建物を買い取って、リフォームして貸家にする方法もあります。
前回も触れましたが、借地人と交渉し、地主側で建物を解体することをおすすめする理由の一つは、借地人に解体してもらうと、安く解体してくれる事業者に頼んで、土台などを埋められてしまうといったトラブルが発生する可能性があるからです。
借地契約書の建物解体義務
地主が、借地人に対して「土地を返すなら、建物を借地人が解体して返してほしい」とこだわる理由は、契約書に「本契約が終了した場合は、借地人の責任と費用により借地上の建物を撤去して、更地にして返還するものとする」と書いてあるからです。しかし、この条文により借地人が建物撤去義務を負うのは、地代不払いなどの重大な契約違反により契約解除した場合だけです。
また、この条文が契約書に明記されていても、契約期間満了時(更新時)に「借地権の更新はしないので、建物は地主が買い取ってほしい」という、「建物買取請求権」(借地借家法13条)が借地人には認められています。借地人が、建物買取請求権を行使する場合、借地人には建物解体義務はありません。
それに加えて、契約期間中に、契約違反がなく合意で借地権を買い取って契約を終了する場合も、法律上、上記の借地契約上の建物解体・撤去条項は適用されません。
必ず解体する場合の処理
借地権と建物を買い取り、必ず解体してしまうなら、建物は地主に移転登記をせずに、建物の登記名義人である借地人から建物の滅失登記の委任状などを取得し、地主側で建物を解体した後に、建物の滅失登記を申請する方法もあります。そうすると、所有権移転登記費用が節約でき、不動産取得税もかかりません。
建物をリフォームして使うか、解体するか迷っているときは、必ず所有権の移転登記を受けてください。
また金融機関から融資を受けて買い戻すときは、建物が古くて解体予定であっても、必ず建物の所有権の移転登記をしたうえで、土地・建物両方にローンの抵当権を付けなければなりません。
買い取り時(抵当権設定時)に土地上に建物があるのに抵当権を付けないと、万が一、金融機関が敷地の抵当権を実行して競売するときに、建物の競売ができなくなるためです。民法により、建物があると借地権(法定地上権)が発生します。建物に抵当権を付けないと金融機関は底地しか競売にかけることができず、ローンを回収できなくなる恐れがあるからです。
借地人が、借地権を地主に売る際に、建物も引き取るという条件に固執するなら、話をまとめやすくするために、建物ごと買い取ることをおすすめします。

弁護士法人立川・及川・野竹法律事務所(横浜市)
代表弁護士 立川正雄

【プロフィール】1952年生まれ。77年、弁護士資格取得。80年、法律事務所開業。多数の宅建業者・建設事業者の顧問先を持ち、実務に即したアドバイス・実務処理を行う。公益社団法人神奈川県宅地建物取引業協会の顧問弁護士、一般財団法人不動産適正取引推進機構の紛争処理委員なども務め、宅建業者向け講演会を40年以上にわたり開催。講演・執筆など、多方面で活動する。
(2025年2月号掲載)
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