不具合放置で 所有者責任が問われる 定期報告で安全確保②

法律・トラブル不動産関連制度

2.定期報告を怠ると責任を問われるリスク

 事業者に定期報告を依頼するにあたっては費用がかかるため、腰が重いオーナーも多いだろう。しかし、定期報告を実施することにより防げる事故がある。定期報告の必要性について見ていこう。

売却時に所有者の 契約不適合責任を回避する

 定期報告をするタイミングは、特定行政庁からの通知が届いたときのほか、売却前が多いという。売却前に点検をすることによって、売主であるオーナーは値下げされにくくなるだけでなく、契約不適合責任を問われない。

 契約不適合責任とは、売主の売却後に見つかった不具合(瑕か疵し)に対する責任だ。たとえ瑕疵があってもそれを前提として売買契約を結ぶことによって、売却後に買主から補修や代金の減額請求などを受けなくて済む。

建物が原因の事故は所有者に責任

「特定建築物の定期検査をすると、ほとんどの物件で何かしらの不具合が見つかる」と話す茶橋社長。具体的には、経年劣化による外壁の亀裂や内装の傷み、非常用照明の不点灯が多い。

 特に築30年以上の建物は、定期報告で不具合が見つかる確率が高くなるという。ちなみに定期報告は「実施すること」自体に課された義務であるため、不具合が見つかっても修繕義務はない。ただし、特定行政庁が不具合の是正命令を出したにもかかわらず、無視した場合は罰則規定がある。

 また不具合を放置していると、何かあった際の被害額が大きくなる。特に日本は地震や台風などの自然災害が多いため、建物は被害を受けやすい。例えば、1995年の阪神・淡路大震災により、賃貸マンションの1階部分が崩壊。賃貸人であった所有者に対して、損害賠償として約1億2900万円の支払いが命じられた。

 茶橋社長は「定期報告とそれに伴う調査や検査はいわば健康診断のようなもの。病気の治療のように必要に迫られるわけではないので、オーナーが二の足を踏む気持ちもわかります。しかし、早めにメンテナンスしたり修繕したりしておけば、設備が壊れた場合に比べて、費用が少額にとどまる場合が多いです。安全・安心を維持するための費用だと捉えれば、定期点検の心理的なハードルも下がるでしょう」と話す。

 不動産オーナーは「何かあってからでは遅い」と思ってほしい。屋上の防水加工は定期点検で不具合が見つかったときに、早めに修繕したほうが費用を安く抑えられるケースが多い。
屋上防水の寿命は10~15年程度といわれている。しかし、たとえ寿命を迎えていても、素人の目視では防水層に大きなダメージが見つからず、再工事する必要があることに気付かない事例もあるという。

 防水層の機能が不十分だと屋上のコンクリートに水が浸透。防水工事だけでなくコンクリートを修繕する費用までかかってしまう。仮に雨漏りがあった場所に店舗が入居していた場合は、営業補償も必要となるだろう。

 ちなみに定期報告を実施する事業者が、改修工事まで手がけるケースは少ない。点検する事業者は第三者であるため「修繕の仕事が欲しいから、過度に悪い報告をしているのではないか」などと疑う必要はない。トラブルが起こる前に修繕するため、将来の余計な支出を抑えられることが定期報告のメリットだ。

<防火設備定期検査の追加に至った火災>

2013年10月、福岡市で発生した診療所の火災では、死者10人、負傷者5人の被害を出した。現場調査で防火扉に不具合があったことが判明。この火災により、防火設備の定期報告が新たに設けられた。定期報告を実施することにより、大きな被害を防ぐべきだ。

(2025年 2月号掲載)
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