オーナーによくある悩みから学ぶ法律の難しさ
アルヴァリンク弁護士法人(名古屋市)の森田辰彦弁護士の元には、不動産オーナーからの悩み相談も多く寄せられる。その中から、近年目に付いたトラブルについて語ってもらった。
建物が老朽化すると、入居者は少しずつ退去していきます。歯抜け状態が続くと収益性が悪化し、収益物件とは呼べなくなります。建て替えを検討するなら、退去の後に入居者を募ることは控えるかと思います。

問題は、それでも引っ越したくない入居者がいることです。最近扱った案件では、5階建てのマンションで1人だけ立ち退きの話し合いに応じてくれない人がいました。配管がボロボロで汚水トラブルも頻発。依頼時にはこのほかに4戸ほど入居中だったのですが、話し合いと立ち退き料で退去してくれました。しかし、最後の1人が「会社が近いから」と応じてくれず、結局少しずつ立ち退き料をつり上げていき、200万円ほど提示したところで解決することができました。
居住用の賃貸借契約の契約解除には、正当事由が必要です。古くなったから建て替えたいというのは、ごく普通の要望ですが、老朽化は契約解除の正当事由に入っていません。借地借家法上、老朽化では退去させられず、入居者は希望する限りずっと住み続けることができます。法律というものは本当に経済性を度外視していると思います。退去させることができれば、建て替えも売却も可能なのに、法律は不合理です。
では、居住用でなければトラブルが少ないのかといえばそうではありません。事業者に賃貸した場合は、原状回復に関する相談が多いです。

先日相談を受けた案件では、事業者に賃貸したところ、無断転貸や未払いがあったことから、立ち退き訴訟に発展しました。訴訟ののち、立ち退きを命じる判決は出たのですが、その後が問題でした。夜逃げのように残置物を残して出て行ってしまったのです。依頼人によると、片付けに多額の費用がかかったそうです。しかもこの場合は、パソコンやコピー機がリース品である可能性があります。そうなると、オーナーが勝手に処分するわけにはいきません。一つ一つ処分方法を確認するので手間がかかります。
これは人によっては明るい話題かもしれません。最近、「固定資産税の評価が高すぎる」と地主が市町村相手に争う事案をよく聞きます。さらに、地主側が勝訴して固定資産税の評価額が修正される例も出てきました。
固定資産税は、国が評価の仕方を定め告示し、それに基づいて市町村が決めています。この告示が極めて抽象的なので、「こんなに高いけれども本当に告示に従っているのか」という点で争うことができるわけです。
ただ、勝ち目があるのは固定資産税に関することだけ。国相手の税務訴訟で納税者が勝つのは珍しく、その勝訴割合は7%です。これでもよくなりました。特に相続税は難しいのです。
相続税の納税者は、相続税財産評価に関する基本通達に従って税額を算定します。こうした国が定めたルールにしっかり準じて納税しているのに、国と争いになる。借り入れによるタワーマンション購入が節税のためだといわれた最高裁判決も、その事例の一つです。
実は、前述の通達には、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」と記載されています。
納税者は国が定めたルールに従って申告しているのに、それを国税庁が否認するのはおかしい話です。同通達による評価が不適当な場合というのはむしろ、その定めに従うと納税額が高すぎて納税者に酷な場合をいうべきだと私は考えます。
過度な節税は注意が必要ということでしょう。
アルヴァリンク弁護士法人(名古屋市)
所長弁護士 名古屋学院大学大学院非常勤講師
森田辰彦弁護士

愛知大学法科大学院非常勤講師を務める企業法務、不動産訴訟、税務訴訟のほか、離婚などの身近な法律問題も幅広く扱う。
(2025年 6月号掲載)
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